現役中最後の総説

帰宅したのが昨夜遅くだったのに、今朝は早くから理事会のために市ヶ谷に参内し、午後は本拠地多摩へと移動、という東京縦断の一日です。多摩キャンパスのレターボックスをのぞいたら、できたてほやほやの地学雑誌が届いていました。南極越冬から帰国して早々に開催された2023年春の地理学会で企画された寒冷地形関係のシンポジウムをまとめた特集号です。拙稿「南極氷床変動史研究から大規模氷床融解メカニズムの解明へ (菅沼・澤柿, 2025)」も掲載していただいていますが、現在の我が身を思うと、おそらく自分にとって現役中最後の総説になるだろうと思われます。
 この特集号の巻頭言(目代・苅谷)には「寒冷地形談話会はこれまで、1980年代からほぼ10年おきに研究成果を学会誌で特集号を組んでまとめてきた」との紹介があります。私がこのコミュニティにお世話になるようになったのは大学院に進学したての1990年代からですが、実際にコントリビュートすることができるようになったのは2001年に日本で開催された国際地形学会議からで、そのときのシンポジウムの特集号として企画されたZeitschrift für Geomorphologie, Supplementaly Isuuesに名前が出てくるのが最初でした。
 その次の2010年代のまとめ特殊号では、当時取り組んでいた日高山脈の氷河作用研究の最後のほうの成果を掲載してもらいました。その論文では幌尻岳七つ沼カール底に分布する恵庭-aテフラについての新事実を提示して、それまで最終氷期前・後半の亜氷期の堆積物が累重する日本で唯一の露頭といわれていた氷河堆積物に新解釈を与えたのでした。これにより、ポロシリ亜氷期とトッタベツ亜氷期の模式地を示したとして地理評で歴代最多クラスの引用数を誇ると評されてきた小野・平川 (1975)論文を、ほぼ40年ぶりにリバイスしたのでした。実はそのことはあまり知られていないのがちょっと残念なのですが、昨年には日高山脈が国立公園に昇格したこともあって、日本第四紀学会設立70周年記念事業の一環で企画されている本の原稿ではしっかりと強調しておいたところです。最近「北海道の脊梁 日高山脈(https://www.kyodo-bunkasha.net/items/105523595)という本が出版されたのですけど、北大山岳部を中心とした登山史や最近のアクティビテイが主題のため(https://aach.ees.hokudai.ac.jp/…/AACHBlog/details.php...)、氷河地形などの学術的な面に関してはイマイチなところがあって、ここに専門家がいるのに、と、やや不満だったりもします。でも、それはまた別のところで書こうと思います。
 ということで、今回届いた地学雑誌特集号では、私のもう一つのメインテーマである南極氷床変動の研究に関して、日本の南極観測隊が切り拓いてきた最新の研究成果とグローバルな研究の展開についてレビューしています。実は10年以上出しそびれていた秘蔵のデータにもようやく日の目をみさせてあげることができています。これも、この企画をお世話された方々をはじめとして、今回むりやり寒冷地形に引き込んだ形になった菅沼さんたちの精力的な研究のおかげです。越冬隊長として現場調査のお手伝いができたことも幸いだったと思っています。
 次の10年は次の若い世代におまかせすることにしましょう。