公共事業基地?
残務処理で衛星受信データをとりまとめて持ち帰り用に梱包.日本から届いたセキュリティソフトのインストールなどを行う.48次には衛星受信担当隊員がいないので,これらの仕事は今後多目的大型アンテナ担当隊員の仕事になる.つまり設営部門に属する隊員の仕事になるわけ.
毛利衛さんは『ロボットにできる定常やモニタリングの観測はもっと自動化をすすめて人員を減らし,その分,本来の研究面に多くの研究者を投入できるようにするべきだ』と提言されているが,人員削減面でもっとも進んでいるのが衛星受信観測であろう.昭和基地から担当の研究者がいなくなり,観測機器をお守りする設営担当だけが残ったことがそれを如実に物語っている.もともと人間の存在をうけつけない宇宙空間での観測ではリモート技術が発達しているので,それに近い分野の衛星受信でまっさきに現場の無人化がすすんでいるのは当然といえば当然とも言える.
今日,アンテナ林で一騒動あった.多くのケーブルが地を這い,観測用の電波も入り乱れているために,立ち入りを制限している区域で,地面を大胆に掘り起こすような土木作業が,観測系隊員のあずかりしらぬところで行われていたのである.
もちろん,土木作業にあたっていた隊員には何の責任もない.全体を見通した作業工程・指示・計画を出せていない統括側に問題があることは明らか.
大気観測に影響がでる焼却炉,基地の電気的雑音を嫌って西オングルに早々に逃げた宙空観測,アース問題を観測部門が個々に解決すべき事項にしてしまう姿勢.新倉庫の建築にあたって,その場所を決めるのに建築・土木で一方的に決めてしまうプロセスなど,観測・研究と設営との乖離はすでにくることろまできてしまっているような気もしないでもない.
昭和基地の生活レベルは格段に向上したし,輸送の面でも,現在工事中の道路の完成によって,飛躍的に効率的になるだろう.でも,これにともなう地形改変によって失われる自然環境も少なくない.私が専門とする地形学的な研究においても,土木工事が進行している地域が充分に調査されているとは限らない.今できることは,どこが人工改変地形なのかをしっかりと見極めておいて,今後調査するようなことがあれば,それを自然物と混同しないように押さえておくことぐらいである.まあ,もう東オングル島にまともな自然地形の存在を期待することはあきらめたほうがよいのかもしれない.
それにしても,大気観測にも電波観測にも向かない,自然地理的調査も限界,野外に出るための充分な準備スペースもない,となれば,なんのための基地なのか,分からなくなってくる.基地拡充,生活環境の向上などの名目で公共事業でもやっているんじゃないかとすら思えてくる.ここは,観測も設営も一体となって南極観測に取り組む美しき共同体の実現の場ではなかったのか?「あなたの作った設備は観測の支障になってるし,役にもたちません」なんて言われたら,がんばっている設営隊員も浮かばれない.
定常・モニタリング観測のロボット化と研究者の短期滞在化をすすめた末に,昭和基地の研究環境を主体的に考えることができる研究者が減ることになれば,この傾向はますます強まってしまうんじゃないかと心配になるこの頃.