研究者の価値
朝は冷え込んで積雪があった.午後,南極帰国後の身体検査,ならびに「しらせ」に荷物を取りにいく目的で上京.
羽田空港の滑走路に降りたら,東京湾の向こうに「しらせ」らしき船がいるのが見えた.しらせが晴海埠頭に帰国するのは明後日で,入管手続きは明日の予定のはず.明日の入管手続きを控えて,すでに湾内で待機しているということも十分ありうる.あのカラーリングと独特の船体を他と見間違えるはずがない.
明日の検査のために,病院近くの水道橋近辺にホテルを取る.このホテルには檜の大浴場がついているのだが,時節柄,宿泊客が少ないのか誰もいなくて独り占め.温泉宿にでも来ている感じで非常に快適.
NHKのクローズアップ現代で,科学五輪に出場経験のある優秀な人材の3割しか研究・開発の進路に就いていないという結果を報じていた.残りの7割は医者と金融関係が半々だとか.やっぱり,社会的ステータスや収入を考えると,科学的素質のある人材はそういうところに落ち着くんだなと思った.
実際,大学でも研究機関でも,研究者は業績をあげるのに汲々としているばかりで,世の中のレスペクトもないし,学生からも熱心に指導すればするほどアカハラだとかセクハラだとか自殺だとかで圧力をかけられるし,全くいいところがない.
南極観測隊にしても,主役の観測者・研究者が一番薄給でこき使われている.それなりの地位にある研究者は絶対に南極には来ないから,末端のポスドクや助手がかり出されているのが現状.でも実際,そういう研究者が一番役に立っているし必要なデーターを黙々と取っているのである.一方,医者はいざという時には確かに必要で頼りになるけれども,観測隊でもらっている給料に比例するほど働いているようには思えないし,観測隊の主役でもない(ハズ).
別に,観測隊の医者に恨みが有るわけでは決してないし,医者もそれなりに観測隊のなかでがんばってくれているのはわかっているのだけれど,本当に主役であるべき人が最も評価されてそれに見合った収入やレスペクトを得られるようなものになっていないのは,結局日本の社会の縮図である以上のなにものでもない.でも,せめて観測隊ぐらい,別の評価・給与体系で組織を作ってもいいんじゃないかなぁ...
まあ,考えてみてください.「南極観測隊では,医者は一番給料が安いです.それでも行ってくれますか?」といわれて,はいはいと引き受けてくれる医者がどれだけいるだろう?でも研究者は実際にそれをやっているんだよね.とにかく,自分の情熱を傾ける対象がそこにあるから,という理由だけで...
これで,科学・技術立国を目指す日本が滅んでも,それはそういう社会を作っている人々の自業自得な訳で,科学・技術立国を掲げる資格も素養も素地も,もともと日本にはなかったとうオチになるだけの話である.
やっぱり,世の中どこか間違っている.どんなに情熱的に科学への夢を語り尽くしたとしても,そんな世の中の現実を見て見ぬ振りをしているがぎり,若者に無責任な夢を見させているにすぎないのではないだろうか?こうして,教育にたずさわる研究者としては,大きな罪悪感に苛まれるのである.