Pseudo-Creationistの戯言
「北大の研究者がCold Fusionを確認した」と道新が報じた件について,研究成果とそれを報道する道新の姿勢の両面について,あちこちで話題になっている.
Pathological ScienceとかPseudoscienceなどと呼ばれ,忌避されがちな分野の話なのであるが,かくいう私も,分野は違うけれども,いわゆる非主流の立場にいるので,世間や学界の通説に与するような単純な批判を展開することには躊躇してしまうところもある.私は,画期的な本物の成果と誤認や病的との境界はかなり微妙なところにある,と思っているので,核物理学に精通しているわけでも何でもないんだけれども,今回の研究自体については頭ごなしに否定的にとらえたくはない.
我々地質学の分野にも,隕石で恐竜が絶滅したという説やChanneled Scablandの洪水説など,大論争が展開された例は多い.氷河期という概念だって,ちゃんと認知されるようになったのは広大な氷原を目の当たりにした極域探検家が,その体験談を文明圏に持ち帰ってからのことだ.それ以前は,大陸の大半を覆ってしまうような氷床が拡大していたなどと想像していた人はだれもいなかったのである(こちらやこちらで紹介している本も参照のこと).
これらの諸学説は「激変説」と呼ばれ,「漸進説」と対立し続けてきた歴史がある.その流れの中で激変説派はずっと劣勢であり続けてきたことはいうまでもない(詳しくは本サイトの【Scabland】の項を参照).私の主張する氷底水流説も,当初は「激変説」の一派とみられてかなり迫害された.ここ数年,実際に南極氷床下に湖がみつかったり,流路を形成している兆候が確認されたりして復権を果たしつつある.もちろん,まだまだ根拠を積み重ねて確実なものにしていく必要があるとも思っている.
ということで,激変説には寛容ではある私だけれど,昨今巷でもてはやされつつある《別の》「ゲキ変説」には,どうしてもなじめない.いわゆる「環境劇変」といわれているもののことである.
私から見れば彼らは「激」を「劇」に巧妙にすりかえているだけの「ネオ・激変説派」とでもいうべき新興派閥で,地質学の歴史の流れのなかで,これまでどれだけ「激変説」が疎まれてきたかも知らずに,無邪気に「ゲキ変!ゲキ変!」と騒いでいるようにしか思えてならない.そういえば一時期,「起学」を「Creation」とすら訳そうという案もあったくらいなんだよねぇ...「Creation」と「Catastrophe」が組み合わさったら,そりゃ最強のアレで,科学と対極をなす別物になってしまうんですぞ.
近年の環境変動といっても,結局は地球の長い時間軸の上の短期間の事象の問題であり,地質学的論法や原理の上で議論できる課題であることは変わりないはずである.Cold Fusionを単純に批判したり,最初から受け付けるのを拒否したりする態度をとるのであれば,環境劇変をとなえる「ネオ・激変説派」もまた同様に批判の対象とすべきであろうと思う.しかも「ネオ激変説」は,マスコミも一緒になってほぼ無批判にしかもファッショ的にキャンペーンを展開しているので,今回の道新報道なんて比較にもならないくらい大きな問題のはずなのだから.
パラダイムという概念が通用する「物理学」の世界と,【明確なパラダイム構造を持たない】とも言われている「地質学」の世界とを同列に論じることにも批判はあるだろうけれど,大勢から一方的に病的とレッテルを貼られている分野の研究者の気持ちが痛いほど分かるつもりだけに,今回の報道に対する各方面の反応は,興味津々と同時にザワザワとした心の感触を抱かせるものでもある.
ということで久しぶりにPseudo-Creationistの顔をのぞかせた氷河地質学者の戯れ言でした.