魚附林の地球環境学

image新学期早々の教員会議.慌ただしい出発だけれど,走りながら考えていくしかない.

そんな感じで,これからこの組織で一緒にやっていくことになる白岩さんから,できたてほやほやの御著書『魚附林の地球環境学 -親潮・オホーツク海を育むアムール川-』をいただいた.これまで外野で眺めてきた氏の活動の総集成がここにあるのか,と思うと,矢も楯もたまらず一気に読んだ.

内容については外野ながら何度も聞いてきた話であるだけに,おさらい・復習のつもりで読むことができた.言葉を選んだ平易さと,各所にちりばめられた気遣いと,それでも媚びることなく誠実に記述されている文体には,なんとも著者らしさが感じられて,付き合いの長い私なんかはほほえましくさえ思ってしまう(後輩なのにこう書くと不躾だけど).

丁度この本で語られるプロジェクトにつながる水面下の動きが始まっていた2000年に,名古屋大学のお世話で有志の集まりである「比較氷河研究会」が開催された.その最後にあった総合討論や懇親会の酒の席で,研究会の「まとめ」らしきことがいろいろ語られたのだけれど,その中に「今後10年に我々はなにをなすべきか」というのがあったのを今でも良く覚えている.思えば,その言葉の震源地こそが,当時スイスに滞在中だった著者であった.そしてご本人は,まさにその後の10年で,インキュベーションから本番に至るまでの一連のプロジェクトをリードし,本にまとめることができるほどの一筋のストーリーを築いてこられたわけである.本著にもあるとおり,このストーリーの出発点は氷河研究にあったわけだが,あの時の「比較氷河研究会」を契機に交わされた議論は,その意味で,著者をして氷河学の母体からの旅立ちを後押ししたのではないだろうか,と思えて仕方がない.本著には,一緒に仕事をはじめることになった成田教授と「もしかしたら主役から転落してしまうかもしれない」とたじろいだことが暴露されている.しかし,その危惧を乗り越えて,その先に潜むより大きな課題に突き進んでいった先見性と忍耐力には,ただただ感服するしかない.

ストーリーとして語ることができる10年をお持ちであること,その中で構築してきた人のつながりや自然との対話の経験を獲得されたことは,数々の研究成果以上に,とてもうらやましく感じる.さらに,このストーリーはこれで完結するようなものではない.著者がめざすアムール・オホーツクコンソーシアムが,これからどれだけ効果を発揮するかにかかっているだろう.しかし,そこでもきっと,著者ならではのストーリーが展開され,またいつの日か,それが著者の語り口で語られる日が来るに違いない.

というわけで,これから私も,取り巻きよりはちょっと近い関係で著者と一緒に大学院教育を担当していくことになる.自分のストーリーを語ることができるようになれるとは思っていないけれど,お手本とすべき人が近くにいるだけでも刺激になるだろう.今後ともどうぞよろしくご指導ご鞭撻いただけるようお願い申し上げる次第.