ハマナシ」の七宝焼

坂本直行さんの「ハマナシ」を下絵にした七宝焼を、ひょんなことから都内で入手しました。額の裏には「北洋相銀 永年勤続記念」という銘が貼られています。
 北洋相互銀行が現在の北洋銀行へ改称したのが1989年ですから、少なくとも四十年以上前の品ということになります。永年勤続された方の記念品だとすれば、元の持ち主はすでに鬼籍に入られているか、存命であってもかなりのご高齢になっておられるはずです。
 道内の銀行ですから、地元の自然や文化を象徴する図案として直行さんの作品を用いること自体は、いかにもありそうなことです。ただ、北洋相銀の歴代会長の一人である大塚武氏は、日本の山岳界においても名を知られた存在でしたので、役員からの直接のご用命があったとしても不思議ではありません。
 大塚氏が日高山脈の神居岳で遭難された際には、AACHも捜索に全面協力しています。それは私が入部する数年前の出来事で、当時の様子については先輩方から折に触れて語り聞かされました。この小さな七宝焼一枚の背後にも、北海道の自然と山をめぐる人々のつながりがかすかに重なっているように思えます。
 どのくらいの七宝焼きが作成されたのかは定かではありませんが、半工芸品的なものなので一点一点で少しずつ表情が異なるはずです。山岳史の片隅に残されたささやかな断片のようなこの一品が、めぐりめぐって私の手元にやってきたのも、山をめぐる人の縁のささやかなつながりのひとつなのかもしれません。