南極の砂漠
テレビ関係者から,南極の「ドライバレー」と砂漠との関係について質問のメールが来た.もちろん知らない人.
BBSやメールでの問い合わせにはなるべく応えるようにしている.今回の回答は以下.
訂正や追加事項等があればご指摘頂きたい.
南極の砂漠についてのご質問ですが,南極のような寒い場所にある乾燥した地域のことを「極地砂漠」とか「極寒砂漠」,「雪氷砂漠」などとよんでいます.
そもそも「砂漠」とは,生物の活動をほとんど維持し得ない不毛の地,のことをいいます.一般的には,砂まみれの地をイメージしますが,上記の定義に従えば,岩だらけでも雪氷だらけでもかまわないわけです.ですから,学術的には「砂漠」には,「岩石砂漠」や「礫砂漠」なども含まれており,サハラのような砂だらけのものは「砂砂漠」という分類になります.
極域以外の砂漠は,蒸発量が降水量を超えるために極度に乾燥した土地をさしています.厳密には,湿潤指数(可能蒸発散)という数値が-40以下のところを指す,という定義も提唱されています.
生物の活動にはまず水が不可欠なので,上記のような乾燥している土地では「生物の活動をほとんど維持し得ない」ということになり,最初に述べた生物を基準にした定義にも合致することになります.
では,南極の砂漠とは,どういうものなのか,といいますと,南極はそもそも非常に降水量の少ないところでして,昭和基地があるような南極大陸の沿岸部の一年間の降水量は300—500mmといわれています.南極大陸の内部はもっともっと降水量が少なく,沿岸から200km余り入ったみずほ基地のようなところでは一年間に150-250mmm,南極点のような大陸内部ではわずか50mmほどです.
南極では蒸発というよりは昇華によって大気中に水分が逃げていきますので,「蒸発散」という定義はあてはまりませんが,そもそも降水量が少なく,しかも雪や氷として地上に固定されてしまいますので,生物が利用できる水分は非常に限られることになります.しかも非常に寒い.つまり,南極氷床の氷の上も,砂漠であるわけです.
「極地砂漠」を発生させるもう1つの特徴は,「寒さからくる乾燥」にあります.寒さは液体の水を固体にするばかりでなく,空気中の水蒸気の量(湿度)を減らしてしまう効果もあります.このことは,冬になれば,日本でも乾燥して静電気がおきやすくなることからもお分かり頂けると思います.
では「ドライバレー」はどうか,と申しますと,そのような場所も確かに「砂漠」である訳です.地上の構成物に注目すれば「礫砂漠」になりますし.極寒という条件に注目すれば「極地砂漠」になる,というわけです.極寒,という条件で,まず大気の湿度がそもそも少ないこと,また,水があっても凍結して固体になってしまうことがその原因としてあります.
一方,南極の大半が雪氷に覆われているにもかかわらず,ドライバレーには雪氷はほとんど存在せず,むき出しの大地が現れています.これが,南極のドライバレーを特徴付けている最大の要因であるといって良いでしょう.普通なら,氷や雪に覆われていて良いはずなのですが,そうはなっていないのです.残念ながらその原因については,まだはっきりしていません.
南極大陸への水分の供給は,南極をとりまく海からもたらされますが,風向きや気圧配置などの影響で,たまたまドライバレーに水分が供給されないのが原因である,という説もあります.そもそも大気中に水蒸気として含まれる量が少ないので,ちょっとでも低気圧がこなくなれば,とたんに「砂礫砂漠」になってしまうのです.
南極氷床上の空気は常に氷で冷やされますので,重くなり,高気圧化します.そのようにして重くなった空気は,低いところをめざして地表面を這うようにして降下します.このようにして吹く風のことを「カタバ風(斜面下降風 )」といいますが,ドライバレーは周囲を氷に囲まれた細長い谷の地形をしています.周囲の氷で冷やされた空気が,このくぼみに向かって常に吹き下ろしているために,ドライバレー内に雪が降り積もることができない,という可能性を指摘している研究者もいます.また,ドライバレーを取り囲む山地の雨陰効果を指摘する説もあります.
「南極にも砂漠はある」という表現は,ドライバレーに注目するのであれば,「南極にも氷に覆われていないところがある」といったほうが適切かもしれません.「砂漠」という定義内では,「南極氷床」そのものも「砂漠」であることには違いないわけですから.
なお,ドライバレーには小さな湖があって,塩分が非常に高いために極寒でも凍結しません.そこでは藻類などが繁殖しており,「極地砂漠」の中の「オアシス」となっています.
以上,お役に立てれば幸いです.