もったいないおばけ

image「何か使いたい物があればそこにに行けば見つかる」と観測隊で言われている建物がある.11倉庫だ.

建築資材の余りや予備品など,とりあえず使わないものや厳密な数量管理を要しないものなどが詰め込まれている.これも来次隊で取り壊されるらしい.

南極の環境保全にからんで昭和基地のゴミが問題視されているが,ここ数年はゴミ持ち帰りプロジェクトを推進して,かなりの量を持ち帰っている.我々もその使命を帯びている.基地の周辺がきれいになっていく様子はまさに「Before/After」の世界.

11倉庫周辺の物資は必ずしもゴミではないのだけれど,美観を損ねていることは確かだし,このまま使われずに朽ち果てていくだろうと思われる「ゴミ予備軍」が多いのも確か.ということで,本日,手空き総員で,この11倉庫の前にある資材置き場の不要物品を整理した.来期の取り壊し作業を円滑に行えるよう,雪が付く前に整理できる物からはじめておこう,という意図.

ほとんどが夏オペで余った資材や予備の物品なので,判断しながらより分けるという手間なく,どんどん廃棄物用コンテナに詰め込む単純作業.といっても,ほとんどが長物であるため,コンテナに収まるサイズに切り刻まなければならない.これが結構大変.

往年の資材が蓄積しているかなと予想していたが,意外にも大抵のものは前に越冬したときよりも新しかった.昭和基地の更新建築ラッシュと言われた時期の物品はそんなにない.むしろ,更新ラッシュが落ち着いた後のものが多い感じ.

南極には通貨はない.持ってきたものが全てだ.だから,「もったいない」という心理が強烈に作用する場でもある.そのため,時代遅れになったり朽ち果てそうになったりしているものすら,次の出番を期待されながら大事に保管されている.

基地の環境が整備された「建築バブル」が過ぎ,また現代的な素材や工法が導入されるなどの技術の進歩に伴って,残置物資の価値は下落した.不良債権の増大とそれにつづく物資デフレである.

かつては,限られた物資の中で創意工夫して,ない物を作り出しながら越冬する,というのが南極観測の醍醐味の一つだった.もちろんその精神は今でも生きていると思うが,使えないものをいつまで残しておいても仕方がない.「もったいない」精神で残置されたものが不良債権化するサイクルは非常に短くなっている.

11倉庫周辺の片付けをしながら,隊員の口々から,「もったいないおばけが出そうだよね...」「あのへんに異様な霊を感じるんだけど...」なんて冗談がとびだしていた.

なんとも複雑な気分.