マニュアル化・リスト化

明日からいよいよ海底探査の本番.2週間ほど昭和基地を留守にする予定.それに備えて,日本から来た仕事の対応,荷物の積み込み,海氷GPSの設置,水素メーザーのチェックなどを実施.低温で水素メーザーの出力が落ちていた件は自然復旧.たぶん,このところの低気圧の頻来で暖かいせいだろう.

ずっと懸案だった,海水サンプリングはうまくいった模様.手伝いたかったけれど,このような状態なのでちょっと無理.せいぜいドリルの整備と貸出しで協力する.

夕刻,定例のオペ会.マニュアル化・リスト化の弊害,のようなことについて議論になる.

マニュアル化やリスト化は有効ではあるが,しょせん昭和基地は生身の人間エキスパートシステムで成り立っているような気がする.リストやマニュアルを公式化するよりも,たとえば「澤柿リスト」と呼称されるような,「人間データベース」の対応可能範囲を公開・周知したほうがうまく機能するのではないかと思うようになってきた.

つまり,それぞれの担当責任者や経験者が知識・経験で持っているものについて,「とりあえずこれだけのことは私に聞いてくれ」というような,「対応可能リスト」を提示するのである.決して「極地研監修公式マニュアル」や「昭和基地伝来リスト」であってはいけない.

その点では,まさに「昭和基地Wiki」は「カッキーウィッキー」なんである.私に何かを聞きたいとき,とりあえず「昭和基地Wiki」をみてもらえば,そこには私が,与えられた役職として知り得ていること,あるいはみんなに知っていて欲しいと思うことが記載されている.まずはそういうインデックス引きから物事が始まり,続いて,越冬隊内の緊密な個人的なつながりのなかで物事が進んでいく,そういうシステムが私の意図するところなのである.

しかし,昭和基地を去ってしまえば,越冬隊員も普通の人に戻ってしまう.南極や昭和基地に特化した知識や経験が日本で生きることは,まずない.隊員が交代する度に「人間知恵袋」が失われていく状況で,インデックスとして残せる物,あるいは残すにふさわしい物が,集団情報管理システムを使いながら,選別され有機的に結合されていくことが,将来の昭和基地のありかたとして望ましいのではないかと思う.