穴
壊れた機材を修理するため,朝の早いうちに作業を終えてリーダーだけ昭和基地に帰還.といっても一人で帰す訳にはいかないので,ちょうどラングホブデ方面にペンギン調査用のルート工作に出ていたパーティにピックアップしてもらうことにした.待ち合わせ場所は,ルッカリーのある袋浦.
ここには,しらせがオーストラリアのネラダン号を救助したときに,そのお礼にもらったというアップル・ハットがある.タスマニア製.しばらくオングル島にあったが,数年前にここに移設された.
このすぐそばにルッカリーがある.もう20羽ほどがいた.夏オペの後半に見た子育て末期のペンギンは薄汚れているし痩せている感じもして,貧相だった.それに比べて,海からルッカリーに戻ってきたばかりのペンギンたちは,まるまる太っているし羽もつやつや輝いていて,とても美しい.きっと海にいた時期は楽園生活だったのだろう.ペンギンにとって夏の子育ては,我々観測隊同様に,実は相当の重労働なんじゃないか,なんて思ってしまった.
お昼ごろに小屋に戻って,今度は,前からずっと気になっていた「穴」の偵察にでかける.「穴」とは,小屋から上流に伸びる「やつで沢」という谷の源流部の氷壁に開いた穴である.南方ルート上からもよく見えるので,ラングホブデ沖を通過する度に是非とも検分しておきたいと思っていたもの.
この穴は,やつで沢をせき止めるダムのように張り出している氷河の壁の真ん中に開いている.その上流側にはこの氷のダムでせき止められてできた池があって,大陸から流れ出す氷河の融け水の受け皿になっている.
氷壁の真ん中に穴が開いているので入るのは無理だと思っていたけれど,直下まで行ってみたら,ちょうど人が通ることができるくらいの切れ込みが入っていた.たぶん,水が流れ出して下刻した跡だろう.
そこを伝って中に入ってみると,入り口の穴の大きさからは想像できなかった巨大な空洞になっていた.側壁は垂直な基盤岩で,その上を氷河氷が覆っている,典型的なSubglacial Spillway(氷河底洪水吐)である.
奥のほうには崩れた氷のブロックが積み重なっていて,せき止めている湖へ通じているかどうかは分からない.今の時期はマイナス15度〜20度くらいまで冷えているのでそれほど危険は感じないが,あまり永居する気にはなれない場所だ.融解期にはせき止めている湖からの逸流や,最悪の場合,鉄砲水が出る危険もあるだろう.
いずれにしても,氷河地形屋として非常に興味深い代物.だいぶ前ににやつで沢の地形形成過程について論文を書いた事があるのだが,その解釈が正しかったことも証明してくれる穴である.



