夏の思い出3:西オングル島編
朝から風が強い.遠足が予定されていたが中止.遠足中止はこれで何度目だろう?夜になって外出注意令となる.
ナトリウムや硫酸など海からもたらされる風送塩によって化学的に溶かされてしまう風化,強風で飛ばされてくる氷粒や砂粒の攻撃によって削られる風化,凍結・融解や熱膨張などによって割れたり砕けたりする風化など,南極氷床縁には,岩石を風化させる要因がたくさんある.それらの作用を受けて風化が進んだ結果,左のような石ができあがる.通称「蜂の巣風化石」と呼ばれるものだ.ちなみに,昭和基地にある「蜂の巣山」は,丘自体が「蜂の巣風化」したものである.
昭和基地のあるオングル諸島を最北端として,南端のしらせ氷河まで続く宗谷海岸の露岩域は,北ほど風化がすすんでいる.これは氷床から解放された時期の古さに起因するのではないかと言われているが,まだ確定的な結論は得られていない.その最大の要因は,岩盤が氷床から解放された時期の年代がはっきり分かっていないからである.また,風化がどれくらいの速度で進行して「蜂の巣風化石」のようになるのかもよく分かっていないのだ.
岩石が現在のように空中に露出するようになってから何年たつか,というのを「露出年代」という.その測定方法の一つに「宇宙線照射年代法」というのがある.鉱物に含まれる特定の元素は,宇宙線をあびると核種変化を起こして別の物質を生成する.長い期間宇宙線を浴びれば浴びるほど,生成核種は増加する.そこで,宇宙線の照射によって生成された核種の量を測定すれば,岩石の露出年代に置き換えることが可能となる.
これを南極の場合に当てはめると,氷床の厚い氷に覆われていると,宇宙線は基盤岩までには達していなかっただろうから,岩盤の宇宙線照射年代が分かれば,氷床から開放されてからどれくらい経過しているかをおおよそ判定できることになる.
ここ数年の経験から,宗谷海岸域に分布する岩石の場合,宇宙線照射年代を得るには,「1回の測定」に最低でも10kgの試料が必要であることが分かってきた.実は,前回の越冬時にもせっせと年代測定用の岩石を採取したのだが,量が少なかったためにことごとく測定に失敗していた.その後の数回にわたる夏オペによって,最低10kgという数字がはじき出されるところまできたのである.
実際に基盤からこれだけの岩石をかき集めるのは結構たいへんな仕事.1回分ではこころもとないので,最低3回分は採取しなければならない.さらに今回は,表面の岩盤をはぎ取るのに加えて,写真にある簡易コアラーを使って,2mのコアも採取することにした.宇宙線がどのくらいの深さまで影響するかを知るためである.一本のコアではそれぞれの深さに応じた10kgの量は稼げないので,何本ものコアを採取しなければならない.そのため滞在期間中は早朝から白夜の夜中までぶっとおしで掘削することになった.
これに加えて,塩類風化の進行速度を知るために,いろいろな酸に浸しておいた大谷石のブロックを設置した.とりあえず越冬明けまでの一年間,できればもっと長期にわたってモニタリングしていくブロックである.こんど見るときにはどうなっているか楽しみ.
ボーリングした孔を使って,この地域の地温や気温を測るセンサーとロガーも設置した.
ボーリング作業中に,削り粉を流し出すための水流を見ていて,流された削り粉が基盤の突起の背後にドリフト状に堆積して「ドラムリン」のミニチュアが出来ているのに気づいた.同様の地形は火星の表面でも見つかっていて,かつて火星表面に水があった証拠ではないかと騒がれている(このへんの話については「雪氷」に書いた私の論文を参照のこと).やっぱりこれは誰がなんと言おうと「水流」の地形だよね.



