「はみ出し者」と「フェロモン野郎」

先日北大で開催された日本動物行動学会で行われた「アリ」に関する研究発表がマスコミで取り上げられていた.

えさ場に仲間を誘導するフェロモンの感知能力が完全であるアリだけの集団よりも,その能力が低いアリを含んでいる集団のほうがえさの獲得量が多かった,という結果.

報道のタイトルには「はみ出し者」とか「優等生集団より稼ぎ多い」などとあるが,この言い方はどうかと思う.「フェロモンの感知能力が完全=優秀」というのはあくまでも「フェロモンの感知能力」について「優秀」なのであって,「フェロモンの感知能力」がアリの優劣そのものを決める要因の全てはない.実際,アリは「フェロモンの感知能力」の低い個体を「はみ出しもの」にしていたとでもいうのか?

報道にもそのことについては(研究者のコメントとして)一応ちゃんと書いてある.ーー能力の低いアリは無作為に動き回るため、新たなえさを見つける機会が増えたと想定されるというーーと.つまり,集団の成果を向上させるためには,決められた道を忠実に歩く能力の他にも,無作為にいろんな可能性を試す能力も必要だ,ということだ.

とはいえ,あいかわらずフェロモン能力だけに注目して「能力の低いアリ」と書いていることろが気に食わない.マスコミはきっと「能力の低いアリ」の意外な効果を強調したかったのであろう.せっせとえさを運ぶアリの姿が,今の日本人像にぴったりくるからなのかもしれないが,「決められた道を忠実に歩けなければ低能力」と決めてかかっているその固定観念(あるいは一般受けしそうなフレーズ)が,今の日本の世の中を悪くしている根源であると思う.そりゃ,最初にえさを見つけたやつが一番偉いに決まっているじゃん.だから,門外漢の私がこういっちゃ悪いんだけど,日本のマスコミ受けした今回の研究も,論文のタイトルの付け方もこんな感じだったら,フロンティアスピリットたっぷりの外国のレフェリーがみたら「そんな解釈が通用するのは日本だけ」と一蹴されるかもしれないよ.

当のアリの研究者は,そんなつもりは全くないハズ.私としては,「えさを見つける能力」の高いアリに注目した研究結果もみてみたい.さらに,できるなら,アリさんたちから,どのアリを一番尊敬しているかも聞きだしてもらいたい.私は,人間が「優等生」と勝手に決めつけた「フェロモン野郎」は,アリ達自身の間では評価は低いと予想する.逆に「フェロモン能力」の低い個体がやっぱり「はみ出し者」扱いされていれば,それはそれで面白いけど.

それにしても,日高敏隆教授が初代会長だっただけあって,動物行動学会って結構面白そう.今後もぜひ,学者らしく客観的に「能力」の評価基準を,未知を開拓することの意義を忘れた日本人に示して行ってほしい.

パイオニアがいない社会は,結局負けるのである.しらせの問題しかり,大学評価の問題しかり…アリに教わらなければ学べない日本人っていったい…