トモダチ以上コイビト未満?

10月14日に書いた寒冷地形談話会30周年には参加できなかったが,ビデオに撮っておいてくれたおかげでその内容を知る事ができた.ビデオの内容はそのうち寒冷地形談話会のホームページで動画配信すべく準備中

パネルディスカッションで松元氏が発表していた「氷河研究における雪氷学と地形学‐トモダチ以上コイビト未満?‐」というのが一番面白かった.これは,3年ほど前に私が世話役になって名大で開催した「比較氷河研究会」のときのメインテーマでもあったのだが,氷河地形屋側,いいかえれば「寒冷地形談話会」の中であらためて話題にのぼるのは今回が初めてではないかと思う.「寒冷地形」研究の今後を考える上でも,重要なポイントであると私も常々思っていたので,松元君の今回の発表には敬意を表したい.

実は,松元君はある意味ではパタゴニアに行っていて参加不能だった私のピンチヒッターでもあった.氏から「代わりに発表する事になったからネタのヒントをくれ」と頼まれて,パタゴニア出発直前に,思いついたいくつかの項目を彼に書き送った.「雪氷学と地形学との関係」というテーマは,その中の一項目でもある.とはいえ,「比較氷河」の時からの松元君自身の興味やテーマでもあっただけに,パネリストとして,また話題提供として,またとない適任者であったのではないか,と感心している.

パタゴニアの調査キャンプでは,隊長の嗜好もあって,現地で安く仕入れることができる上質の牛肉やハムを,日本では考えられないほどの厚切ステーキにして常食としていた.切り分けられた肉は微妙に大きさが違っていたが,それぞれがどの肉片を取るか,という問題が発生し,それをめぐってテントの中で学者気質論議にまで発展したことがある.

重さや大きさを計って有利なものを選ぼうとするのが「物理屋」,焼き具合やあぶらののり具合で選ぼうとするのが「地理屋」.はたして,一番おいしい思いをするのはいったいどちらか?ーーーなんて下らない議論に花を咲かせていたのである(まあ,テント生活なんてそんなもんだ).

要するに,松元君のかかえる問題,そして今回の話題提供の趣旨は,同じ「氷河」を研究対象にしている中での,雪氷学の主役である「物理屋」と地形学の主役である「地理屋」との関係の問題であり,それぞれの思考・学問的背景がどのように影響しているか,という問題なのである.

松元君が指摘するように,氷河学において「地理屋」は「物理屋」にひけめを感じる傾向があるし,学問的発展性からいうと,「地形屋」はおたおたしていると存在意義すら否定されかねない状況にある…やもしれない…

しかし,肉の件に例えれば,誰が一番おいしい肉にありつけるか,ということに関して,『やっぱり「地理屋」だよね』なんて言いたくなるのが私の心情.でも,みんながそれぞれに納得して食べるのが一番おいしい食べ方なのかもしれない,と考えると,答えはそう簡単ではないとも思えてくる.

私がお気に入りの,富山商船高専の金川教授の新作に「教育言誤学」という連載記事があり,その中に「氷が解けると…」というコラムがある.「氷」つながりということでここでも紹介するが,ここで金川教授が指摘している「誤解する権利」とか「ただ一つの正解ということはありえない」あるいは「感性の答えと知性の答え」というのが,実は「トモダチ以上コイビト未満?」の解決に通じる道なのかもしれない,と思ってみたりもする.