つかの間の休息

しらせがいなくなったので氷上輸送はなし.隊長判断で休養日課となる.重機やトラックの音もあまりせず,基地主要部は夏オペ中とはおもえない静けさ.

救助活動がすんなり終了したようで,しらせは明日にも戻ってくる模様.輸送作業もすぐに再開される予定.つかの間の休息日となった.


帰還命令

image昨日にひきつづき,今度は48次の測地・海洋グループが昭和へ帰還.スカーレンに残ったのは我々二人きりになった.スカーレン露岩の地形踏査.擦痕や水流痕と堆積物との分布関係をマッピング.

天測点にいってみたら,ま新しいペンキで巨大な対空標識が塗られていた.地理院から派遣されている測地担当隊員の仕事にちがいない.地球観測衛星だいち(ALOS)の可視センサーでも捉えられるように大きくペイントしなおす必要があるのだとか.この標識が映った衛星画像をみてみたいものだ.

夕食後,ワインを飲みながらテントでゆっくりしていたら,定時交信でなにやら重要な通知があるとの知らせ.

話の通じにくいHFからイリジウムの電話に切り替えて詳細を聞く.南氷洋の漁船で発生した急病人の診断に向かうため,しらせが一時昭和基地を離れることになったらしい.それで,野外にいて緊急時の対応が難しいパーティを基地に収容することに決まったという.

あと一時間くらいでピックアップに向かう,というので,あわててキャンプの撤収作業にとりかかる.あいにく天候は雪.ときどき吹雪ぎみになる.テントをたたんでしまうと,あとは露天で耐えるのみ.

ときどきイリジウムで昭和基地と連絡を取りながら待つこと2時間.ようやくヘリがやってきた.ちょうど雪もやんで,スカーレンでの調査に未練を残しつつ昭和に帰投.

我々を回収するのを待っていたかのように,日付の変わる頃にしらせは医者を載せて反転していった.

ということで,しらせが戻って夏オペが正常に復帰するまで基地にいることになった.正月は野外で,と思っていたけれど,緊急事態につき思わず昭和基地で年末年始を迎えることになる.


偵察

image本格調査に備えてスカーレン一帯の偵察.

まごけ岬の先に見える氷床の末端から融解水が勢いよく流れ出ていた.氷床の表面や内部を伝って集められた融解水だ.

48次の地物グループが一足先に昭和へ帰還.


サスツルギの亡霊

相棒が一人で歩きたいというので午前中はテントで休養.お昼過ぎからGPSを持って三角点巡り.途中から48次の一行と合流.

午前中にテントの中で「サスツルギの亡霊」 神山裕右著・講談社を読んだ.我々47次隊が日本を出発する直前に出た小説で,夏隊で先に帰国した福井・高野さんが48次隊に託して送ってくれたもの.

昭和基地を舞台にした推理小説.越冬明けの夏の露岩のテントの中で読むには充分すぎるほど楽しめるストーリー.昭和基地や観測隊の生活などがけっこう子細に描かれていて,著者自身が観測隊員だったことがあるのではないかと思うほどよく書けている.今や昭和基地が我が家同然となってしまった身としては,あちこちの場面が生々しく起想されて,まるで自宅で起こった殺人事件ミステリーを読んでいるような気にすらなってしまった.それだけに,実際とはちょっと違うんじゃないかな,と思うところには過剰に反応してしまう.たとえば...(以下ネタバレ注意)

ストーリー展開に重要な地理的場所として「立ち待ち岬」という地名が出てくる.登場人物の会話中にもよく使われているが,実際の観測隊では,このへん一帯のことを「見晴らし岩」と呼ぶことが圧倒的に多い.「立ち待ち岬ってどこ?」っていう隊員も結構いると思う.文学的には「立ち待ち岬」のほうがなんとなくロマンチックだったりするし,ストーリ上の含蓄があったりするんだろうけど...

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容疑者が居住棟の倉庫に一時監禁される場面.倉庫にはスキーなどの野外装備が無造作に投げ込んであるという記述だが,実際にはここは文庫本やマンガなどの書庫になっていて,監禁される悲壮感は全くない楽しいスペースである.また,監禁者を見張る隊員に武器として与えられているのがインパルス消火器だったりするところはなかなか.

アンテナ島にレドームがあるような記述があるけれども,実際にはアンテナ島には各種パラボラアンテナのレドームは一つもない.小説中で登場するセスナやピラタスはすでに極地研はこれらを所有しておらず,昭和基地の駐機場(といっても海氷へつながるドリフトの雪面だが)も現在はない.また,旧焼却炉棟も撤去されている.発電機が三機あることになっているが,現状は二機.火力発電と書かれているけれども,火力でスチームを作ってタービンを回しているわけではなく,ディーゼルエンジンでの発電である.小説ではインマルサットは使っているようだが,インテルサットでのインターネットについては記述も少ない.小説中では雪上車の40は幌タイプしかないようだが,現状では金属パネルで荷台が覆われている改良型も導入されている.これらのことから考えて,少なくとも45次以前の昭和基地を想定して書かれているようだ.

image細かいところで言えば,食堂でお茶を飲むシーンで,自分のコップを取り出すという動作が描かれている.確かに隊員はマイカップを食堂の角にある棚に用意していて,コーヒーやお茶を飲むときにはそれを使っている.

ショウワギスを釣って,それが唐揚げで出てくるだろう,という会話が挿入されている所とかは本筋とは関係ないけれども,知ってる者にとってはこころにくい演出だったりする.夏宿の「赤い椅子」に座る,なんて書き方も,知らない人にとってはどうでもいい記述のはずなのに,こっちとしては嬉しくなってしまうようなことだったりするんだよねぇ.マニアックな喜びかも...

最後のほう(p290)に,南極(というより観測隊)の魅力について書かれた一文がある.短いけれども共感できる一文である.

こんな感じで各場面の一つ一つに自らの越冬生活を重ね合わせることができる.この小説を読みながら,そういえばあそこの写真もまだ撮ってなかったなぁ,なんて思ったりして,もう一度確認しておきたかったり再訪してみたくなったりする場所がたくさん出てきた.滞在期間も残り1ヶ月となった.この期間中にやっておくことリストに入れておこうと思う.


野外で初顔合わせ

氷上輸送が続く中を抜け出して,お昼過ぎにスカーレンへ出発.48次の地物・海洋・測地グループが先発していたが,我々は47次独自の夏期野外オペということで彼らとは行動は共にせず,宿泊サイトも違う場所.

夕食後に48グループが宿泊しているカブースを訪問.彼らとは昭和基地では対面していなかったので,初顔合わせとなった.


つわものどもが夢の跡

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スカレビックハルセンからピックアップされて空路昭和へ向かう.冬期にさんざん通ったラングルートがまだ残っているのが上空から見えた.残っていると言うより,シュプールが融けて亀裂になっている感じ.プロジェクトの成功をかけて必死に海氷上をはいずり回っていた夢の軌跡がだんだん消えゆこうとしている.そんな感じがして,なんだかしんみりとしてしまった.

昭和基地に近づいたら,見晴らし沖にしらせが接岸しているのが見えた.

午後,一般物資の氷上輸送が開始.通常は海氷が安定する夜間に行うが,今回は日中.我々47次隊は海氷からの陸揚げと装輪車での島内配送を受け持つ.帰投してすぐにもかかわらず,荷受け部のそり取り回し指導を頼まれて,休む間もなく雪上を駆け回る.

明日からまた野外に出かける.次の帰投は年明け.野外で新年を迎えるのはS17組と我々のみ.

本年はお世話になりました.来年もまたよろしくお願いします.それでは皆様良いお年をお迎えください.


S-form天国

image試料採取を昨日のうちに終わらせたので,今日は地形の調査.ここスカレビックハルセンはルンドボークスヘッタやスカーレンと同様に「S-form天国」である.

基盤岩に刻まれているこの浸食痕は,氷床の下でできたものだが,水流による浸食か氷そのものによる浸食かで学会を二分する大論争が起こっている.私は水流派.氷床下では水は被圧されて下から上へも流れることができる.この写真のように側壁を駆け上るように岩盤を削っている縦横無尽な動きはそうした被圧水のなせる技だと考えているのだが,どうだろうか?

夜の定時交信で,突然のリクエスト.着陸した地点はヘリの離発着に向かないので,もっと平らなところを探して移動しておいて欲しい,という.近くによい場所が見つからず,仕方がないので,総量800kgの荷物を500mほど手作業で移動させる.ひどい重労働.

しらせが昭和基地に接岸したらしい.無線を通じて入ってくる会話に,接岸直後の慌ただしさが分かる.


スカレビックハルセン

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朝の便で野外へ出る予定だったが,諸事情により昼近くまで遅れて出発.昭和を飛び立つと,夏オペ真っ盛りの,茶色の地面がむき出しになった『飯場』の全貌が見わたせた.

まずヒューカまで行って先発の二人をピックアップし,スカレビックハルセンへ移動.岩崎と私がここに降りて,三浦さんは昭和へ帰投.

さっそく,宇宙線照射年代測定用の岩盤サンプルを採取.30kgの表層岩盤をはぎ取る.


氷状偵察・どっち向き?

しらせの接岸ポイントを検討するため,越冬隊長と一緒にスノモで海氷上に出る.

スノモでももぐってしまうほど海氷上の積雪はザクザク.冬期の海氷とは全然違う.昨年の停泊ポイントまで行ってみると,5月に海氷が流された時に流動した氷山が進入ルート上に立ちはだかっていることが判明.これをうまくかわせれば,北に頭を向けた状態でほぼ同じ位置に停泊できそう.

夕食は48次隊歓迎のバーベキューパーティ.

しらせはかつて,西向き,つまり向い岩におしりを向けて昭和基地主要部に頭を向けた状態で停泊していたこともあったようだ.極地研究所のホームページのバナーにランダムに表示される写真の中に,夕日に染まった海氷上にしらせが停泊しているところを撮影した航空写真がある(ホームページを何度かリロードすると出てくるハズ).このしらせをよく見ると,じつは西向きに停まっていることが分かる.南からの進入路に大きな氷山があるので,どうやら,北向きにオングル島にそって海峡を入ってくることができなかったようなのだ.今日の氷状偵察の結果を考察しながら,あらためてこの写真をみて初めて気づいた.意外な発見.

今回はここまで大きな氷山ではないし,停泊予定位置にもそんなに近いわけでもないので,たぶん北向きで大丈夫だと思う.

海氷が流されると氷山の位置がガラッと変わってしまう.いや,むしろ,氷山は流れるのが普通の存在だから,今回の越冬で見慣れてしまった「海氷に鎮座する不動の氷山」というのは,ある意味では「動きの凍結」という刹那的な氷山を見ている事にもなるんだなぁ,と思った.

ひととおりの初期受け入れ作業の役割を終えて,ようやく明日から野外にでかける.3日後に一旦帰還する予定.


居残り

ヘリオペレーションが本格化.三浦・岩崎の47地形組,48地物・測地組が朝一番であいついでフィールドへ出かけていった.私は環境科学棟の引継ぎ,海氷行動安全講習の講師,氷上輸送のルート設定など,なにかと役回りが多く,露岩調査には一緒に出られず,荷物をヘリポートに運んだだけで出発組を見送るハメになった.その後,48後発組の受け入れや緊急輸送物資の荷受け作業など.

夕食後,海氷安全講習で48次隊に現状解説を行う.47次越冬隊よりも多い人数に圧倒される.人数的勢力は完全に逆転してしまった.久しぶりに多くの人に会って思いの外疲れた.


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