展張訓練

強風のため,今日も「長距離通勤」はキャンセル.

午後,防災訓練.元消防団員の安全監理主任による消火に関する講義の後,消火ホースを展張する訓練を実施.くるくる巻き付けてあるホースの一方を引っ張って,一気に延ばす.

このところ,いくつかの手続きが前倒しで実施されている.10月末にはドーム隊が旅行に出発して越冬交代まで帰ってこないので,帰国に関する諸々のことを今の内からやっておく必要があるためだ.

まず今日は,帰りのしらせでの船室の割り振りが決まった.誰と同室になるかを,喫煙・禁煙で分けた後,くじ引きと庶務による微妙な調整によって決定.当初ちょっとは波乱も期待したりしたけれど,結果をみると,まあ,落ち着くところに落ち着いた,という感じ.

考えてみれば,ドーム要員が昭和基地にいるのもあと一月しかないんだねぇ.


パワハラと組織論

ALOSの昭和基地上空画像がようやく得られたそうで,そのキャリブレーションのためにコーナーリフレクターの正確なGPS座標をだしてくれ,と依頼が来た.早速,コーナーリフレクタのそばで24時間のGPS観測を開始.

昼過ぎに海氷GPSの設置.日差しが暖かく,風も弱くて小春日和.氷の上で昼寝でもしたくなる気分.

VLBIの記録システムのソフトのバージョンアップの依頼が来たので早速対応するも,なぜかコンパイルできず敗退.指示を待つことに.ついでに,あやしいLayer2のARPパケットが流れていて,FreeBSDのコンソールに頻繁にエラーが出ることが判明.非常にウザイ.どっかのPCのVPNあたりが怪しい.なんとかはじきたいのだが,ipfwのバージョンが古くて対応不能.FreeBSD自体のバージョンをあげなきゃ無理か...下手にいじるとうまくいかなかったときに観測に支障がでるので,とりあえず放っておく.

夕刻,定例のオペ会(このために今日はいつもの「長距離通勤」をキャンセルしていた).その中の議題の一つに出ていたのだが,観測隊もハラスメント問題に取り組まなきゃいけない時代になったようで,極地研では次の隊の集会に,わざわざ専門家を講師として招いてレクチャーしてもらったとか.そのプレゼン資料やビデオを昭和基地でも見せることになったらしい.

ついでに隊長が,例の阪大のねつ造・自殺事件を扱った,Natureの記事(Ichiko Fuyuno and David Cyranoski. 2006. Nature 443: 25)も資料として用意していた.『服毒自殺は普通ではない...他殺では?』という.研究者として私も興味あるので隊長の気持ちも分からないではないが,この記事は観測隊にはあまり関係ないんじゃないかなぁ...

それよりも,隊長が用意していたもう一つの資料『パワハラを減少させるための社会基盤』というの中の『組織と構成員』の考察のほうがおもしろい.隊長は組織論における構成員の役割の見方を分類して,

  1. 伝統的組織論/古典的管理論…構成員を受動的道具とみなす
  2. 人間関係論…各構成員は人間として自分の動機や価値や目的を持っている.組織行動のシステムに彼らが参加するには,動機付けや誘因が必要.個人の目的と組織の目的の間に矛盾があるため,構成員の態度やモラルの問題が,組織行動の説明に中心的な重要性を持ってくる.
  3. 近代組織論…構成員は意思決定者ないしは問題解決者である,意思決定のための認知や思索のプロセスが,組織行動の説明に中心的な重要性を持ってくる.

としている.

まあ,観測隊全体としては2番目の分類が一番近いんだろうけれど,国家プロジェクト規模で南極観測を見れば,まだまだ1の要素で見られる部分が強いと思う(特に為政者からみれば).越冬隊という組織でみれば,逆に,それ自体が小さい組織なので,役割や専門性は特化されており,3番目の要素の集合体として見るほうがピッタリ来ると言ってもいいかもしれない.白石総隊長がJARE47のスローガンとして挙げていた『三人寄れば文殊の知恵』というのは,こういう意思決定や思索のプロセスのことを言い現しているのだろう.

一番問題なのは,本来3番目ぐらいの気持ちで自立していなければならない越冬隊員でも,他の部門のサポートにまわったとたんに1番目の構成員に成り下がってしまう可能性があるという点だ.特に,危機的場面や未経験の領域に踏み込んだときに,どのような反応を示し,感想を残すか,という点は,個々のキャパシティにも左右される問題でもある.近頃は,南極という特殊な自然環境に対する個人個人のキャパが狭まっているような気がしないでもない.

ちなみに,AACHは元来,3番目の要素が非常に強い組織である.一時期,2番目の要素が強まったこともあったが,決して1番目に分類されるような組織になったことはないと思う.このへんの考察は部報14号よりも13号のほうが良く表現できているように思う.その点では,14号の出来具合には「もう一押し」という気持ちが残る.

ー閑話休題ー

『組織と構成員』に戻るが,ここで「なぜハラスメントが組織論と結びつくの?」という疑問が残る.実はそこに,《頭の切れる》隊長の『思考の飛躍』が我々に突きつけられるいつものパターンが発生する.そこで飛躍を埋めるために私流に解釈してみることにする.

ハラスメントの一方は『権威者』である.よって,その権威者とは組織の中ではどのようにとらえられている物なのか,という命題が発生する.隊長はその命題を考察し,その結果,この組織論の分類が提示されたのであろう,と思うわけなのである.

つまり,現代風・近代風の組織論で言えば,「権威」なんて絶対的なものはなく,それは権威を受け止める構成員の側にある,という結論なのである.それが題名の『パワハラを減少させるため...』というところにつながるのだ.

ところで,隊長がいつも言っている『自己責任』はこの中にどう位置づけられるのだろう?


北方海域堆積物掘削

北方海域でグラビティコアラーを初めて投入.

測深値やサブボトムプロファイラの反応が良くなかった,という不安要素が的中し,思うようなコアが得られず.設定をやりなおしてあらためて再投入することになった.

良好なコアが得られなかったこともあるが,これで長距離通勤も終わりかという期待も裏切られて,落ち込みは深い.


トシか...

観測部会をさぼって,今日も北方海域へ堆積物掘削の準備.

3日間の強風休みの間にルートがずいぶん荒れた.半分寝ながらの無防備な体勢で雪上車に揺られて首を痛めた.

サロンに置いてあるマッサージ椅子を試してみた.生まれて初めて気持ちいいと感じた.年か...


スカーレン隊帰投

休日日課の今日も探査の作業.3日間強風で休んでいたので,そのあいだ放って置いたワイヤーを撤収する.すっかり孔が凍っているかと思っていたが,アザラシ君が維持していてくれた模様.

スカーレン隊が帰投.また基地がにぎやかになった.


今の内に

久しぶりの本当の休日日課.朝,テレビの取材でWebカメラの前で水槽に雪入れする予定だったが,強風のため作業はキャンセル.取材には,数人の隊員がカメラに向かって手を振って対応した模様.

限られた南極滞在の時間を基地内でウダウダ過ごすのはもったいない.それでもオフィスでやっておかなければならないことは沢山ある.好天になれば一日中外出しているため,なかなか内業ができない.そのため,天気が悪いうちにやれることをやっておこうとするのだが,そんな時に限って極地研のサーバーが不調.しかも休日なので日本の担当者は出勤していないだろうし,なかなかはかどらない.

昭和基地Wikiの,基地管理・運営の情報ストック&フローシステムのプロトタイプとしての位置づけが強まってきたため,次の隊が使うことになった場合の移行性やスケーラビリティなどについて検討している.次隊に,あるいはその次の隊にも使ってもらうことも見通して,交代の度にリセットしたり設定をいじくらなければならない箇所を洗い出すのが主な内容.

これまで場当たり的にモディファイしてきたのが祟って,結構な数になった.それに,汎用性を高めれば細かなニーズに対応できないし,何にでも対応できるようにつめこんでしまうとスケーラビリティの乏しいWikiには限界がある.

国内からメンテできるなら,昭和基地からの要望に応えて今後10年は面倒みて,そのへんの欠点を人力で補ってもいいんだけど,たぶんそうもいかないだろう.

これを引き継ぐとしたら,どんなふうにしたらよいか思案のしどころである.これだけで論文が何本か書けてしまいそうだな...


潜航

今日も風が強く,Wikiサーバーのアップデートをしたり,札幌の講座のサーバーのメンテをしたりして基地で作業.

海底探査でキーになる作業工程に水中ロボットを使ったワイヤー通しがある.ロボットにはカメラがついていて,毎回その潜航作業の様子を録画している.今回は9/18に行った潜航の様子をお見せしよう(速度は実際の約10倍).

画面に表示される磁方位と音波による位置追跡装置の情報を頼りに,ジョイスティックを操って200m先の直径60cmの孔にロボットを到達させる.

海氷の下は意外に明るい.特に積雪が薄いところは直接光が差し込んでいるようにさえ見える.逆にこういう明るい所と我々が開けた孔との区別がつきにくく,操作に手間取ることもある.9/18は4-5回目の潜航だったので結構慣れてきて6-7分ほどで到達できた.歩くのと同じくらいの速度.向こうの孔についたらロープを引っ張って元の孔へ戻ってくる.


朝日新聞二題

朝から風が強い.この悪天を予想してすでに昨日から今日の外出をキャンセルしてお休み.そうとう久しぶりの休養日となった.

基地で昼食を取るのも久しぶり.たまった事務処理を片付ける.そろそろ次の隊に託送品を持ってきてもらう手はずを整えなければならない時期.研究室や自宅に連絡して,送ってもらう物をお願いする.

今日の朝日新聞に,おもしろい記事が二つ.「ワールドくりっく」というのに『英の南極探検家にみる危機のリーダーシップ』というのと,「かがく批評室」に『ニセ科学』の記事.

『リーダーシップ』のほうは,スコットとシャクルトンの比較.所期の使命を達成出来なかったリーダーの人命を賭した場面での判断の違いの背景にあるようなものを解説.私はもともとシャクルトンの大ファンだが,スコットの背景にもうなづけるものがある.

ボスにはアムンセン,夫にはスコット,恋人ならシャクルトン

と言った博物館の女史の寸評はなかなか良い.なにかに使えそう.

『ニセ科学』は科学まがいのことが一般に受け入れられてしまうことの背景についての解説で,

パブリックイメージとしての科学は,そのような曖昧な返事をせず,「さまざまな問題に対してきちんと白黒つけてくれる」ものなのではないだろうか.ところがこれはニセ科学の特徴である.

科学の結果だけが求められ,その本質である合理的思考のプロセスは求められていない.

と述べているところに筆者の意図の神髄がある.

大学院の教育でも,私(達)は常にこの点に気を配ってきたが,特に新しいコースを志向するような院生は「結果」を求める傾向にあるように思える.彼らの欲する「結果」は,サイエンスの「結果」であると同時に「教育」として与えられるものの「結果」でもあるように思う.実は,すぐに使える実用的な技ではなくて,合理的思考のプロセスを会得してもらいたいと望んでいるのだが...

私自身の研究テーマは,学会を二分するような大きな議論の渦中に置かれているテーマでもある.それだけに,論文が受理されるまで苦難の過程を経なければならないつらさを味わっているが,一方で科学のあり方や進展ということについて考えさせられることも多く,いろいろと勉強させてもらっている.これらのことはこの雑感のページやエドモントン滞在記にも何度も書いてきた(11/167/39/4,あるいは市民科学者の育成と氷河地質学など).

今日,時間がとれたので,一昨日Shaw教授から送られてきた論文をじっくり読んでみると,まさにこの問題に関わる議論が展開されている.Benn & Evansの水流説への批判は,Creationistsにも好まれる危ない学説だ,と冒頭から述べており,まさに「エセ科学」の危険性をはらんでいるかのような警告から始まるのだ.この論争には,PopperやOccam’s Razorまで飛び出して,まさに科学哲学論争の様相を呈している.これについては,私も「Channeled Scablandの解説」で書いたことがある(実際には火星の水流地形研究でも有名なBaker教授の受け売りで書いたのだが).

この批判に対するMunro & Shawの反論は,まさに当を得ていると思う.もちろん私はShaw派なのでひいきもあるが,何よりも,Benn & Evansは氷底水流説のメッカであるカナダのフィールドを一度も検分していないのだ.実際に「もの」も見ずに頭の中だけで批判しているのは,フィールドサイエンティストとしては最低である.

さらに,「関心のない科学者はあえて危険な仮説に飛びつく必要がない」ということも論争されていて,これらはまさに,私が滞在記の2/21や火星の論文(雪氷(2005), 67, 163-178.)でも書いたとおりの展開となっている.日本語で書いているので彼らが参照しているとは思えないが,私の考察のほうが先を行ってる感じがするのはなんとも気持ちがよい.岡目八目の効果かもしれない.逆に,自分の考察を英文で発表できていたらどんなによかっただろうと,ちょっと後悔もしたりする.

いづれにしても「氷河地質学的」「堆積学的」そして「科学哲学的」な『合理的思考のプロセス』を院生に教授するには,この論争が良い題材になることは間違いないと思う.

 


やっとデータが

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今日も北方海域で探査.サイドスキャンソナーとサブボトムプロファイラーをウィンチで回す.つり下げ深が200mもあるので,探査機器の上げ下げだけでも相当に時間を要する.

ほぼ一週間の格闘の末,ようやくデータがとれた.層の境界ははっきりせず,悩ましい結果.

例によって,夕食時間を過ぎて基地に帰投.S17とスカーレンに旅行隊が出ているので,基地内は閑散としている.


北方探査開始

朝寝坊.集合時間に電話で起こされて雪上車へあわててけつける.来月の野外計画をとりまとめていて夜更かししたせいもあるが,連日の長距離通勤で疲れが溜まっている.

今日はいよいよ北方海域での音響探査を開始する日.中継点から帰ってきたばかりのドクターも支援に来てくれて助かる.お昼すぎまでかけてセットしたサイドスキャンソナーを通しているうちに,ウィンチがオーバーロードで停止.ワイヤーの角度が悪く,そりにこすれていた.この箇所は前からも改良しなければいけないと気になっていたところ.南極は些細な不備も見逃してくれない恐ろしいところである.

結局,ウィンチそりの方向とワイヤーの張り具合をなおしたところで時間切れ.夕食後のミーティングが終わった昭和基地に帰投し,ぺこぺこのお腹に取っておいてもらった夕食をかき込む.そろそろこの快晴続きの天候も終わりらしい.早いところ片付けなければ...

帰ってからメールを見たら,Shaw教授から論文のコピーが送られてきていた.近々Blackwellから出版される”Glacier Science and Environmental Change” という本の抜粋で,氷底水流仮説に関するBenn & EvansとMonro & Shawの議論の大激突.じっくり読みたいのはヤマヤマだが,疲れきった頭にはとても入りそうにない.都会ならば,長時間でも電車の中などで読みながら出勤できるけれど,揺れ揺れの雪上車の中ではとてもそうはいきそうにない.落ち着いたら,コメントを教授に送ろうと思う.


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