南極 一覧

作り直し

休日日課.それでも,とっつきルート整備班は出かけていった.

image左の写真は,4/21にも書いた,今年のしらせの航跡を偶然映しているDigitalGlobe社提供の衛星写真(2/14撮影)の上にGPSで測位したルートをのせたもの.赤いこれまでのルートは,みごとに航跡を避けていた.丁度しらせが反転したあたりから南の海氷がなくなったので,岩島付近は海氷縁とルートとの間が狭い.そこで,オングル海峡側をやめて,岩島の西側に作り直す方針で,黄色で示したようなルートになる予定.

やっぱり,今後はしらせをオングル島より北上させないように要望したほうがいいと思うぞ.

image今夜は,有志による居酒屋「くる八」が開店.バーのカウンターでの寿司と,調理場を利用した大衆飲み屋風居酒屋の二本立て.一軒目で寿司を食べ過ぎて,次の居酒屋で苦しむハメになった.

5/13日付けの朝日新聞の科学欄に地球温暖化と氷床融解についての記事が載っていた.その中に私の名前も出していただいている.

昭和基地では朝日新聞の衛星版を講読しているので,それで読んだ何人かの隊員から「いつの間に…」なんて声をかけられた.でも取材が来たのは,特に私が今南極にいるから,という訳ではなく,4/20に書いた「配管システム」の論文がらみで問い合わせが来ていたのに答えたのがきっかけ.

観測隊員としてではなく,その道の専門家として見られる方が気分はいいかな...「この記事のおかげで,実は私は研究者だったんだ,って隊の中で再認識してもらえるかもしれない」などと,へんな期待をしたりもする.

氷床底水流のことに関していろいろ返事したんだけれど,記事にはそのことは全然書かれていないのがちょっと残念.


野外主任の胸中

オングル海峡の海氷が流れたとはいえ,とっつき岬と西オングルテレメ小屋へのルートは生きていた.残った氷は薄くなったり融解したりしている訳ではないので,海氷縁に寄りさえしなければ大丈夫だろう.

海氷状態にピリピリして,その盛衰に一喜一憂しなきゃいけない日常は,大陸から離れた島の基地生活者の定めのようなものだけれど,5月も半ばになったというのに,まだとっつき岬から上にも,西オングルでの宿泊もできていないというのは,なんとももどかしい.ドーム旅行なんかに至っては,ここから1000kmの旅をしなきゃならないのに,いまだに基地から出だしのほんの10km足らずの区間でモタモタさせられている.

内陸旅行や沿岸旅行は,基地生活とは別世界.南極の本当の姿を見ることができるし,そこで繰り広げられる観測隊の活動もまた,基地生活とは全く異なる要素が満載だ.隊として,この時期になってもその片鱗すら体験できていないというのは,ホントに残念なことだと思う.

そのうち存分に南極を体験できる日がやってきて,最終的に越冬を終えてみれば,今の時期にチマチマと海氷を気にしながら,ほんの10数キロのルートを保守していたことなど,ちっぽけなことだったと思うようになるのは目に見えている.それだけに,そのチマチマ作業に縛られている今日この頃が,なんとももどかしく思えて仕方がない.

焦りが禁物なのはよく分かっているけれど,はやくチマチマ作業から解放されたいという気持ちがあるのも正直なところ.これから暗夜期に向かって,ますます,このもどかしさが募っていくんだろう.そこを切り抜ける峠が,今越冬の精神上の最大の山場かもしれない.

...都合により,サーバーを変えました...


後始末

image外出注意令は解除になったものの,まだ強めの風が残っているので気軽に外出できる感じではないのだけれど,海氷の様子を見に行ったり.除雪,飛ばされたドラム缶を回収,離れにある機器の点検とデータ回収など,ブリ後の後始末に追われる一日.

オングル海峡の開水面の深い青色に,あきらめとも嘆きともつかぬため息をつく.心の中もブルー.

コーナーリフレクタはなんとかA級ブリザードに耐えてくれた.昭和基地Nowに記事が載ったばかりだし,ここであっさり飛ばされてしまっては面目が立たないので,ちょっとほっとしている(さっそく記事に誤植発見.設置日は記事掲載日の4月26日で,5月26日ではありません).

日本から来た仕事を仕上げたのと,永年懸案だった論文の進展があったので,その点ではちょっと肩の荷が下りた.


三日目

今日でブリは丸三日目.午後になって視程が効いてきた.現れたのが,なんと波しぶきを上げる海面.

ブリで海氷が流されて,とうとうオングル海峡が開いてしまった.岩島をはさんだ北方の様子がまだ分からないが,とっつきルートが全滅していないことを祈るのみ.

一刻もはやく確認に行きたいけれど,この悪天はあと数日続く見込み.


内職

一日30m/sを越える強風.まだ収まっていないが今次初のAブリに認定された.

外出禁止令が出ているので仕事場にも観測機器回収にも行けず,居住区で内職.国内からやってきた仕事やら,指針・マニュアルの編集やら.

午後に,禁止令は注意令に.それでも,外に出るには覚悟がいる.海氷が心配.


外出禁止令


image

指針の編集で昨夜は仕事場に泊まり.朝,猛烈に壁をゆらすブリの音で目を覚ます.

今回のブリは,視程の悪さといい風速といい,これまでで最強.午前中に出た外出注意令は,午後に今越冬二度目の外出禁止令になった.

ということで,身動きがとれず時間もありそうなので,レスキュー指針と野外安全行動指針についての説明会を開催する.外の大荒れの様子を見ながらの実施に、結構現実感が伴う.


体操収録

休日日課.早めの昼食の後,海氷上に出て「体操」のビデオ収録を行う.基地を常時写しているWebカメラの画角内なので,見てたひとは何やってんだろう?と思ったに違いない.

そのあと,西方の小島へ行く遠足隊に同行して,海氷GPSのデータとバッテリーを回収する.


氷上サッカー

休日日課.朝一でドリフトのついた三浦そりを救出.

image午後,氷上サーカー大会.10分という短時間の試合にもかかわらず,足下が悪いのと運動不足で非常に疲れる.3チームのリーグ戦の末,我々のチームが優勝.若い隊員から,はじめて私の無邪気なはつらつぶりを見た,と言われた.そりゃ,サッカーなら燃えますわな.


校正

image端午の節句ということで,食堂に兜飾りが登場.鯉のぼりも一応上がったようだけれど,風が強くてワイヤーなんかにまとわりついてしまうので,早々に一度下ろされてしまったみたい.それで,シャッターチャンスを逃してしまった.明朝に期待.

今日は一日物書き.

越冬隊には一応「内規」というのがあって,昭和基地の運営指針を規定している.さらにその下には,別に定める指針やマニュアルもある.逆にその上(というのかどうか)には,極地研が作成・配布しているマニュアルや必携書があって,いろいろと隊員が把握しておかなければならない取り決めが多い.これも,厳しい環境の中で安全と実効性を確保するためには仕方のないこと.

越冬内規とそれに付随する指針は,隊ごとに作成するので,内容が統一されているわけではない.これは,基地設備の変化や観測態勢の違いを適宜反映させる意味でも有効なことである.しかも,内規は,実際に越冬生活をしながら,現実に即した物へと改訂されるので,同じ隊であっても様々なバージョンが存在することになる.

ここ数日かかりきりになっているのが,野外主任として編集責任を持たされている「レスキュー指針」と「野外行動指針」および「野外行動マニュアル」の改訂案の作成.ほとんどはこれまでの隊の受け売りで作成しているのだが,それでも,今回の隊に即して改訂すべき点は多い.今日もほぼ一日かけて内容を吟味する.

すでに越冬が始まって4ヶ月目に突入しているのだけれど,越冬全体から見ればようやく助走を終えたようなもの.極夜が明ければ野外活動は本格化し,内陸旅行も始まるので,昭和基地の人員も少なくなりがちになる.そういう状況に備えて,しかも,現在の越冬隊の実情や隊員の力量が分かってきた段階で指針を見直しているというわけ.

これまで,普段の物書きにはシンプルなエディタを使うことが多かったが,改訂案を他の主要メンバーに逐次チェックしてもらうことも想定して,Wiki上で編集することにした.Wikiのもつセクション機能は,指針のような系統性を求められる文章をまとめるには非常に適していることにあらためて気づかされた.

定義・繰り返しの回避・カテゴリー分け・他の指針との整合性のチェックなど,なんだか計算プログラムを書いているような感じ.でも,実際にこれを走らせるのは計算機でもなんでもない生身の人間.どこまで読みこなしてくれるやら.,.

いや,なんとも疲れた.


UPS停止

朝,宙空隊員からL/Sバンド受信用のワークステーションが止まっているとの連絡を受け,急遽衛星受信棟にかけつける.

UPSの出力が落ちていた.原因は不明.いきなりUPSから電源供給を絶たれたワークステーションは,HDのソフト的な構成に不具合をきたしていて,電源を復活させても正常には起動しなくなっていた.管理者権限でログインしてディスクを修復し復旧.

衛星データの受信スケジュールが記載されたファイルをネット経由で受け取るタイミングを逃したため,終日欠測となってしまった.今日は久しぶりの晴天だったので,NOAAの画像で海氷の状態を見るのを楽しみにしていたのに,残念.

昭和基地は,まともな基準電位点を確保できないことが,電源まわりの永久の課題になっている.問題をなかなか解決できないその主な原因は,有効な接地抵抗を取るために好都合な「土」がないことにある.南極という,岩盤と雪氷だらけの土地柄のせいだ.ここはまさに「永久凍土」地帯なのである.

電気のことはよく分からないけれど,地面のことは一応専門.「永久凍土」の学術的な定義は,「2年以上0℃以下に保たれる地面の環境」というものであり、温度の基準のみで定義されている(Wikipediaの記述は間違っているな…).「永久凍土」というと,凍り付いた「土」と思われがちだが,土壌に限らず,岩盤でも砂礫でもよい.また「永久」といっても2年以上の氷点下期間があれば「永久凍土」と呼ぶことが出来る.

昭和基地は生物の活動が非常に限られる環境だから,微生物や有機物の分解という要素が含まれる「土壌」の分布も当然乏しい.一方,冷え切った岩盤や砂礫堆積物は至るところに露出している.だから「土」のない昭和基地も,問題なく「永久凍土帯」となるのである.

永久凍土を定義した人は賢いと思う.「凍土」の定義に「土」とか「土壌」を条件としてしまうと,「生物」の作用を前提としなければならないことになって,昭和基地のような環境のものを定義の範疇から除かなければならなくなってしまうのだ.だからこそ,というか,その不都合を逃れるために,「永久凍土」の定義を温度という物理条件に限定した,というのが本当のところなのではなかろうか.

さて,問題のUPSだが,昭和基地の「アースがない問題」を克服するために,観測隊はこれまで様々な工夫を凝らしてきた.とりあえず現状でできるもっとも手軽な手段としては,UPSを介して発電機から直接電源を取ることを避けるようにすることである.UPSならば,停電や瞬断にも対応できるという面で近頃の精密電気機器には欠かせない存在でもある.

今回の件は,そのUPSがなんらかの異常を感知して出力を遮断してしまったことにあるのだけれど,ある意味では,電源周りの故障から機器を守ってくれたのだと解釈できるかもしれない.欠測してはならない定常観測の場合,停電による観測停止を防いでくれる役割も期待しているのだが,今回はその役目は果たしてくれなかった.

しばらく,原因究明に時間をかけてみようと思う.


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