プロジェクトM 一覧

津波

今日も引き続き,海氷掘削ソリの試験.導入孔として掘った穴に掘削ソリの位置をピタッと合わせるのに苦労する.数センチの移動を雪上車で引いてやろうっていうのだから,ほぼ不可能に近い.なんとか合わせたところでようやく掘削にこぎつける.今後は,導入孔をどうやって掘るかが課題.

ジャワ島南西部沖の津波が昭和基地でも観測されたと海洋情報部からプレス発表があった.昭和基地の潮汐を観測している海保の担当部署から,基地内担当の私の所へ「何かなかったですか?」と問い合わせが来た.

実は数日前に雪上車でタイドクラックを渡って,その跡に大きな孔が開いているのがみつかり,ミーティングで注意を呼びかけていた.日付を考えると丁度津波が昭和基地に到達した頃にピッタリ合う.きっとタイドクラックはこの津波の影響で大きく開いたモノにちがいない.クラックを渡った直後はそんなに陥没していなかったので,潮の加減でその後に大きく開いたのだろうと予想(責任回避?)していたんだけど,あながち私の予想が間違っていたわけでもなかったみたい.それにしても,まさか赤道付近の津波の影響だったとは,驚き.


海氷掘削試験

image今日も引き続き掘削試験.トランスミッションのオイルが凍って動かない.ジェットヒーターで温めて復活.それでも,掘削は思うようにはかどらず,次回に持ち越し.

好評につき,南極展のライブステージのスケジュールが追加になった.開催期間中の土日は全てライブステージがあることに...こりゃ大変だ.


一筋縄では…

image海氷掘削ソリの試運転...といきたいところだが,低温で発電機が始動しなかったり,いざ海氷上で動かそうとしたらロッドがチャックに入ってくれなかったりで,試掘はまた今度.

汚水配管凍結のため,朝から洗面所とトイレが使用禁止.必死の復旧作業の末,夕刻には使えるようになった.数日ぶりにとっつき岬から帰還した隊員たちがお風呂に入ることが出来てなにより.

とっつき組の帰還を待って誕生会を開催.6月と7月をあわせた6名のお祝い.


掘削ソリ

休日日課.

朝から海氷掘削ソリの立ち上げ作業.凍り付いた部所をジェットヒーターで温め,無事稼働することを確認.


始動

当直.

プロジェクト始動の最初の作業をやる予定にしていて,当直だったことをすっかり忘れていた.二人きりで作業をさせることになって済みません.

ということで,今月から開始する海底探査計画の本格的始動に備えて,見晴らしに置きっぱなしにしていた掘削ソリを基地の下まで運搬する.

夕食後,野外安全講習の最終回.

6.車両救助、人命救助の方法および体制
7. 野外医療セットの内容と野外での応急処置の方法

いろいろやっかいな問題も増えてきた.議論する姿勢があるだけまだ救いがある.

通路棟に笹の飾り物.どんな願い事を短冊に書こうか?


南極域の配管システム

マイナス15度のちょっと風が強い中で2回目の消火訓練.ホースから飛び散るしずくがあっという間に凍り付く.

今日の記事は,この水道の配管ではなくて,自然の配管システムについての話.

Natureの最新号(440-7087)にSiegert氏らの南極の氷底湖に関する論文が掲載されている.

雪氷学:南極の氷底湖は急速な流出によって連結している
Rapid discharge connects Antarctic subglacial lakes p1033
Duncan J. Wingham, Martin J. Siegert, Andrew Shepherdand Alan S. Muir

学術機関ならそのままWebサイトで読めるだろうし,日本語版も無料登録すれば概要を読むことができる.

同号にはこれに関連する解説も二編掲載されており,さながら特集号のような感じだ.

Lakes linked beneath Antarctic ice p977
Massive flows of water change perceptions of frozen continent.
Jim Giles

雪氷学:南極氷床の排水機構
Glaciology: Ice-sheet plumbing in Antarctica p1000
Garry K. C. Clarke

本論文は,ドームC付近にある氷底湖の水が氷床の下で実際に移動していることをInSarの衛星データを用いて明らかにしたもの.第二著者のSiegert氏は,過去に南極氷床底湖のインベントリーを出しているくらいの氷床底湖の専門家で,解説記事では筆頭著者のWingham氏をさしおいて「Siegert論文」とさえ言っていたりする.Winghamさん,かわいそうに...

実はこの論文には私の論文も引用されている.もしかしたらこれが私のNatureデビューかもしれない.嬉しいなぁ...こうなってはこの注目の「Siegert論文」の解説を書く責務が私にはあるにちがいないと思うので,ちょっと長くなるが思うところを書いておくことにする.なお,先日の南極大学を受講された生徒さんたちは,すでにこれを理解する素養はできているものと思う.

まず,氷床の下に水たまりがあることは,氷床コアを採取する前の事前調査で氷厚を測ったり基盤の地形を調べたりするためのレーダー探査や音響探査で一般的にあり得ることだと分かっていた.1960〜70年代にかけてのグリンランド氷床コア掘削プロジェクトが開始されたころにはすでに氷床の下にある程度の水たまりがあることは認識されていただろうと思う.特に,氷体の下に水があると表面が比較的平らな形になることが分かっている.氷床の表面高度プロファイルをとると,不自然に平らな所がでてくることがあり,その底に水があることが推測できるのである.今回の論文も,そのことを利用して人工衛星の干渉画像で氷床表面高度をとらえて,表面が平らな場所が移動していることをつきとめたものである.

南極氷床底湖としては,ロシアの南極基地の下にあるボストーク湖が有名.この湖は巨大なためずっと注目されてきた.特に,氷床の下で外界から遮絶された湖であろうとの見方から,湖が形成されてからの環境が維持され,もし生物がいるとすれば独自の生態系が形成されているのではないかと予測されている.このような特殊な環境を保全するために,現在では底まで掘ることを中断して,最適な調査方法が確立されるまでさらなる掘削作業を保留している.

今回の論文は,その意味では,南極の氷底湖には,ボストーク湖のような孤立した湖だけでなく,移動を繰り返している氷底湖もあることを実証した点で注目に値するだろう.もしかしたらボストーク湖も,過去にはこのような移動を経験していた可能性もでてきたわけで,予測されている「独自の生態系」や「孤立環境」の解釈を変えなければならない可能性も出てくるのである.

さらに,氷床底湖が移動しているということは,もしかしたらその流れが氷床の末端まで届いて,氷床下の融解水を海洋に放出してしまう可能性もあり,この点も本論文の重要な論点として挙げられよう.

実は,この論文にも引用されているように,私自身もD論やそのほかの論文で地形発達史学的に南極氷床下の融解水が排出された可能性を指摘してきたが,現在の状況で「移動」が確認されたのは初めてではないだろうか.地球科学には,現在起こっている現象をキーにしてそれを過去にも当てはめる,というのが基本原理としてあるので,今回の確認は,過去を推測する意味でも,「あり得ること」として重要なサポート材料になるわけ.

過去10万年くらいの地球規模の気候変動は,氷床・大気・海洋の相互作用で大きく変わってきたと言われている.特に,氷床の拡大は水を大陸側に固定して海水準を低下させる.逆に,氷床が融け出すと海水準が上昇するわけだが,その影響はそれだけにとどまらない.氷床の融け水や氷床から分離した氷山が徐々に海洋に流れ出したりしているうちは良いが,もし,それが急激に大量に発生すると,海水が冷やされ,海水の塩分濃度が希釈されることになって,海洋の大循環に大きな影響を与えると言われている.実際,北大西洋では,最終氷期末期から現在の温暖期にかけて,数回にわたってこのような現象が起きたことが分かっており,特に1万3-4千年ほど前には,氷河期から温暖期に向かっていた最中に急激な寒の戻りがあって,ローレンタイド氷床底湖あるいはその周囲に形成されていた氷河せき止め湖からのカタストロフィックな真水の流出が原因ではないかと言われている.

私は同様のことが南極氷床でも過去に発生したのではないかとの仮説の元,南極氷床の融解の歴史について研究を続けてきた.今回の越冬中に実施する予定の海底探査も,このコンテクストにのっとっているものである.衛星観測で一度に地表面を見渡すことが出来るようになった現代では,探検家時代のような新発見はないけれども,かつてヘディンが発見したような彷徨える湖が氷床の下に眠っているとなれば地理屋の血も騒ぐ.大陸氷床上に出かけていって直接氷床底湖を探査してみたいものだが,今は氷床周縁部で過去の痕跡を明らかにする仕事となる.

「Siegert論文」では水の移動期間を約16ヶ月と見積もっており,これではカタストロフィックというには流量が少ない.解説を寄せているG.Clarke氏はその中で,「Siegert論文」を南極氷床研究の転機になるものと評しているが,一方ではこの流量が少ないという点を強調して,「catastrophistさんたち,ぬか喜びになるかもよ.残念でした」って感じで,かつてQSR-24 (2005),1533-1541で氷底水流派の論を酷評したように,あいかわらずgradualistの立場を貫こうとしているようにみえる.

これは私にとっても重大な挑戦状だ…と思って,これからのプロジェクト本番にむけて一層気合いを入れなおしているところ.


西オングルルート完成

imageスノーモービルで西オングル島にあるテレメ小屋までのルート工作に出かける.小雪が舞って寒いのでパッパと作業したら午前中の仕事でルートは完成してしまった.アンテナ島周辺はまだ薄いところがあるけど,西の浦に出ると80cm以上の海氷.もうそろそろ雪上車もOKかな.

今回は指向をかえて海底地形図にルートを載せてみた.海氷に覆われた海水の下には陸上以上に起伏に富んだ地形が隠されている.前回の越冬時からそうだが,こういう海底地形を調べるのも私のメインテーマの一つ.この図でははっきり見えないけれど,点々と等間隔に記載されているのが実際の測定ポイントの深さで,7次隊以降断続的に地形越冬隊員によって一点一点海氷に孔を開けて音響測深器によって深さが測られてきた.位置も正確に出さなければ意味がないので,現在のようにGPSのなかった頃は孔の位置の測量だけでも大変な作業だった.

前回の越冬で私は西オングル島西方を担当し,一冬かけて600カ所の深さを測った.その結果を出した時点で測深の仕事は中断し,これまでの成果がコンパイルされて「オングル島周辺の海底地形図」として極地研から出版されている.

一点一点測る方法にはどうしても限界がある.範囲を稼ごうと思えば点と点の間隔が広くなって細かな地形はもれてしまう.かといって細かく測ると限られた時間で測定できる範囲は狭くなってしまうのだ.この地図にあるように,陸上の等高線の屈曲具合というか細かさに比べて海底のがおおざっぱなのはそのへんに原因がある.本来なら陸上なみかそれ以上に複雑な地形が存在しているはず.

今回のプロジェクトでは,その点を克服するための新兵器を持ち込んだ.サイドスキャンソナーである.これを使えば,ソナーから連続的に発せられる音波によって,測線方向にある幅をもった範囲の海底地形を細かく調べることができる.

氷河期には南極氷床は現在の位置よりも海側に張り出していた.そのときは氷床は海底に着底して地面を削ったり堆積物を残したりしていたはず.そういう痕跡を期待して,この冬には海底堆積物を採取したり,海底地形を明らかにしたりして,南極氷床の盛衰を復元しようとたくらんでいる.


越冬成立

大安吉日の今日,我々47次越冬隊は「越冬成立」を宣言した.

この宣言は,実際に来年しらせが迎えに来るまで帰国しないでここにとどまる決意を意味する.成立式で越冬隊長が隊員一人一人の名前を読み上げ,それへの返事をもって,各自の決意を確認した.2月1日に越冬交代は果たしたものの,宣言前までは,ここで越冬する条件が整うまでの準備・確認期間であったわけだ.

image越冬成立と同時に,いよいよ今次隊の3本柱のプロジェクトの一つでもある我々地形グループの三浦プロジェクトが本格的に活動を開始した.まずは,機械隊員に手伝ってもらって,夏オペで陸揚げされっぱなしになっていた秘密兵器の一つの組み立て.

左右を取り間違えるとかボルトの孔が合わないとか,一筋縄ではいかなかったが,3トン近い巨大なアトラクションをなんとか組み上げることができた.

image夜半より地吹雪.仕事していた環境科学棟が揺れ出した.ブリになる前に居住棟へ帰らないとヤバイ.まだ管理棟が見える視界なので,仕事帰りの命綱のついでに自分が管轄の区間のライフロープでも張っておこうか,と思って実際にやってみたら,ちょっとした不備を発見.担当者に報告しておこう.


いい話

Shaw教授からのメールには,いくつかの最近出た論文の紹介があった.氷底水流派にとってはどれも歓迎できるものばかり.

特筆すべきなのは,かのRechard Alley博士が,氷底水流が気候変動に及ぼす影響について前向きの仮説を発表していることである(”R.B.Alley, T.K.Dupont, B.R.Parizeka, S.Anandakrishnan, D.E.Lawson, G.J.Larson, E.B.Evenson (2006) Outburst flooding and the initiation of ice-streamsurges in response to climatic cooling: A hypothesis. Geomorphology”).まだin pressらしいのだが,電子ジャーナルサイトにはすでに掲載されている模様.

ついに気候変動研究の大御所も氷底水流派になったか...しめしめ...

この論文では,主に西南極の研究成果を元に仮説が展開されているのだが,東南極についてはあまりふれられていない.私,そしてJARE47越冬地形隊三名が満を持して臨む三浦プロジェクトの意義はますます重要性をますとともに,成果次第では一躍一線に躍りでるチャンスも残されている.

土木作業と飯場生活で論文読みからすっかり遠ざかっていた脳には,非常によい刺激になった.Shaw先生ありがとう.


異種格闘技戦

午前中の次期4カ年計画にからむセルロンダーネ研究についての打ち合わせに引き続き,午後,氷床の盛衰の検出に関する下記の研究集会.なんで午前中だけで帰っちゃうのか理解不能.午後の異分野格闘技戦こそ進んで臨むべきだと思うのに...異種の重要な分野である「雪氷学」が集会のタイトルから抜けていたので亀田さんの指摘通り訂正.

深夜まで飲み会は続く...

「いま南極の氷は減っているのか、増えているのか?:南極氷床変動の検出における第四紀地形地質学と地球物理学・測地学・(雪氷学)の共通課題に関する研究集会」 (プロジェクト研究P6)

日時:11月15日(火)13時00分〜18時30分
場所:国立極地研究所6階講堂

背景と目的:
大気中温室効果ガスの増加による地球温暖化によって、極域の氷床が融解し、海水面の上昇が懸念されている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告書によると、過去100年間の世界の平均海面の変化の要因の1つには、グリーンランド氷床と南極氷床の寄与も含まれているが、具体的な観測に基づく最近の南極氷床変動(質量収支変化)の証拠はまだほとんど得られていない。

最近の南極氷床変動(質量収支変化)の検出方法としては、これまで行われてきた直接的な氷河学的観測とともに、氷床コア解析、融解水の流入による海洋物理学的方法や氷床の変動に伴う地殻の隆起・質量変化に基づく測地学的方法など新しい方法が提案、実行されつつある。しかし、一方で、第四紀後期の数万年スケールの大規模な氷床後退の影響と最近の氷床変動(質量収支変化)の結果を分離しない限り、最近の外的環境変化に応答して南極の氷が減っているのか増えているのかを正確に評価することはできない。第四紀後期の南極氷床の拡大と縮小の過程は、陸上の氷河地形地質と隆起海岸地形の解析や海氷下の海底堆積物コアによる連続的な氷床縁の環境変化の解明によって明らかにされつつある。

このような最近の研究状況を背景として、以下の3点を本研究集会の目的とする。

(1)最近の南極氷床は減っている(融解している)のか?増えているのか?という問題は、これまでの観測によってどこまで明らかになっているのか?あるいは、わかっていないのか?を知ること
(2)最近の南極氷床変動(質量収支変化)を検出する方法にはどのようなものがあるのか?将来の展望はどうなのか?を知ること
(3)第四紀後期の氷床変動と最近の氷床変動(質量収支変化)を分離する方法はあるのか?問題解明のための第四紀地形地質学と地球物理学・測地学の共通課題とは何か?を知ること

ープログラムー

1300-1310
三浦英樹(極地研):趣旨説明

1310-1355
亀田貴雄(北見工大・工):「南極氷床の堆積速度、流動速度の観測に基づく氷床質量収支の解明と問題点・課題」(講演30分、質疑15分)

1355-1440
青木 茂(北大・低温研):「海洋物理学から見た南極氷床融解の検出の可能性と今後の展開」(講演30分、質疑15分)

1440-1450
休憩

1450-1535
土井浩一郎(極地研):「昭和基地の測地学的観測に基づく氷床融解の検出と今後の展開」(講演30分、質疑15分)

1535-1620
大園真子(名古屋大・理):「GPS観測に基づく南極および昭和基地周辺の地殻変動」(講演30分、質疑15分)

1620-1630
休憩

1630-1715
山本圭香(京大・理)・福田洋一(京大・理):「衛星重力に基づく氷床融解の検出と今後の展開」(講演30分、質疑15分)

1715-1800
奥野淳一(東大・地震研)・前杢英明(広島大・教育)・三浦英樹(極地研):「Near-fieldの第四紀地形地質学的データに基づく南極氷床モデルと現在の測地学データの解釈」(講演30分)

1800-1830
総合討論

1830-1930
懇親会


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