持ち帰り空輸開始

今日から持ち帰り空輸開始.まずは廃棄物ドラムとコンテナから.

ここ数日,ひざに傷みがあり,水が溜まっていると診断されていた.朝方,遠隔医療装置で国内の整形外科の診察を受け,相談の結果,特効薬を患部に直接注射することになった.まだ残っている野外調査に出られるような体に戻すためでもある.

初めて温具留中央病院の手術台にのった.たいした内容ではないのだけれど,このほうが処置しやすいと言うことで.注射直後は,ちょっと麻酔も入っていたので,膝が笑って踏ん張ることが出来ない.午後の輸送作業を免除してもらって,おとなしく個室で過ごす.

前回の越冬では「クラッシャー」の異名をとるほどにいろいろ物を壊したけれど,今回はなにかと医療のお世話になることが多い越冬だった.年もわきまえずがんばりすぎるからだと,同い年の調理隊員にからかわれた.身体の鍛錬には無精しているつもりはないのだけれど,せっかちな性分はそのままで,自然と体に無理をかけていたのだろう.思っているほど実態は若くないのかも.


水素メーザー

image午前中,水素メーザー予備機の搬入に立ち会う.400kgの重量物でしかも扉の幅ギリギリサイズの超精密機械.これを狭い地震計室の一番奥に設置しなければならないからたいへんな作業.4000万円もする機械ということで,担当の48次隊員は「フェラーリだからね」と慎重に扱っていた.

地震計室まではクレーンでつり上げ,床の梁などをかわせるように底上げした台の上をコロで転がしながら移動させてようやく搬入完了.

VIP一行は,お昼過ぎにバスラーでトロールへ向けて帰路に就いた.しらせも夕刻に昭和基地沖を離れてラング沖に南下.


停電

VIP一行は,バスラーの機材繰りの都合で今日一日S17に足止め.私のほうも,昨日の強風で決まっていた予定が延びてヒマになったので,個室にこもって論文と記事の原稿書きに専念.

午後,アラームとともに突然電源が落ちた.エンジンの重い響きがないので発電機が停まったのだとすぐに分かった.非常事態の発生である.

無線機をつかんで,とりあえず環境科学棟と衛星受信棟のブレーカーを落としに向かう.この経路で発電機のそばを通るので,停まっていることは自分で確認できた.

環境科学棟のブレーカーを落とした後,衛星受信棟に行って,無停電電源装置で生きている観測機器の電源を手動で落とす.さらに西部地区の地学棟に行って,潮汐観測機を発電機につないでバックアップ.その後,ふたたび東部地区の端にある地震計室に向い,水素メーザー関係の停止をチェック.

一時間ほどで復電が開始された.順番にブレーカーを上げていく作業.環境科学棟の復電を確認したあと,衛星受信棟の機器を再起動し,地震計室の水素メーザーの正常動作を確認.地学棟の潮汐機器は地学棟の担当にまかせることにした.

これまで一年間,一度も停電がなく「奇跡の越冬隊」と噂されかけていただけに,交代まであと二週間というところで事故停電してしまったのはなんとも口惜しい.機械隊員の申し訳なさそうな顔は見るに堪えずつらかった.

真冬の停電だったら命にかかわる重大事故になってしまうが,今回が事故発生とはいえ夏期だったことは幸い.夏オペの外作業をしている48次隊の中には,停電のことなど気にもかけず,仕事を続けていた現場もあるくらいだ.我々の事故への対応も,一度も訓練していなかったわりには整然と落ち着いて行われていたような気がする.

実際に事故停電を経験してみて,いろいろと勉強にもなった.電気が停まることへの備えは,観測系はかなり周到に整備されているかんじ.むしろ,復電時の優先順序が意外に重要だということを認識した.特に,ネット化した設備では,タイムサーバーやDNS,ルーターなどの起動順序がキモ.今回は,定常観測系の地区を優先して復電させたけれど,冬期であれば,水循環系など,凍結に弱い箇所の復旧が優先されることになるだろう.

越冬も残りあと二週間.これ以上事故をおこさないように気を引き締めなおしているところ.


VIP離昭和

image昨夜から15m/s超の強風.雲はなく青空の東風なので基本的にカタバなのだけれど,多少低気圧の影響もある様子.外作業とヘリフライトは一時見合わせ.

明け方まで続いた飲み会から,そのまま越冬最後の当直に突入.二日酔いの頭を抱えながら業務をこなす.

午後には風が止んでフライトも再開.VIP一行が昭和を離れ,日本への帰途についた.今夜はS17泊.手空き総員でAヘリで一行を見送る.

引率役の本吉さんが涙をこらえながら整列した見送りと握手して行った.氏が数年来手がけてきた企画が成功裏に実現した安堵感・第二の我が家とも言っていた昭和基地との別れなど,本吉さんの胸中には様々な感慨が渦巻いていたに違いなく,その気持ちは痛いほどよく分かる.南極が生み出す男の涙とはまさにこのこと.

本吉さんは白石47次総隊長と並んで,私が,学生時代から南極地学の先輩として頼ってきたお二人である.どちらも生涯を南極観測にかけてこられた研究者だ.昨年の最終便では,白石総隊長の涙もみたし,これでお二人の決定的瞬間をはからずもこの昭和基地でみることができた.

私も泣くのなら,こんなふうに泣いてみたい.男の泣き方までお二人に指南された感じ.でも,お二人のように泣けるようになるまでには,私はまだまだヒヨッコである.

VIP一行が去って,昭和基地本丸には越冬中にもどったような寂しい雰囲気が漂っていた.ほんの数日前のもとの人数にもどっただけだし,しらせも48次隊もいるのだけれどそう感じてしまうのは,客人が滞在していた華やかさが相当のものだったからであろう.そう思えるのも,客人の皆さんの人格や品位,観測隊への理解などがすばらしく,肩肘をはらないきさくさもあって,双方の心を動かすような交流ができたからに違いないと思う.今回のVIP訪問の人選は大正解だったと思う.


ソフトボール大会

VIPご一行は連日の視察でお疲れ.今日一日はオフ.ドルニエやバスラーのクルーが洗濯と入浴のため朝の便でS17から昭和基地にやってきた.人数が多いので,夏宿と管理棟に分かれて洗濯と入浴をさせる.食事も我々を含めて一度は無理なので,時間差で.昭和基地の人口は今夏最高を記録した.

image午後,48次隊とソフトボール.前次隊が負けたことはこれまでなかったということがプレッシャー.しかも相手は経験者ぞろいで,練習の様子を見ているだけで弱気の言葉が飛び出してしまう.

立松氏の始球式で試合開始.前半負け越していたが,こちらはVIPという秘密兵器を投入して攻勢をかけ,結果的に辛勝.越冬で培った南極流の姑息さで試合運びをリードし,ホームの利点を生かしたのが勝因.まあ,ぶっちゃけたところ,相手のお情けで勝たせていただいたということなのである.

しらせの支援員をもてなすバーを終えてから,VIPのさよならパーティを兼ねたバーをあらためて開店.48次も交えて和やかに飲む.

ソフトボール会場のCヘリポートから海氷を眺めていると,しらせのアイスオペレーションの様子がよく見渡せた.まるで砂糖にアリが群がるように兵隊さん達が氷山にとりついて氷を採取していた.アングルはCヘリとは違うけど,通信室の窓から撮影しているWebカメラを記録したので,一日の様子をコマ送りで見ていただこう.


潮汐引継

VIP一行は今日も野外巡検.みずくぐり浦でペンギンルッカリーを観察した後,ロングフライトで白瀬氷河を往復.

私は午前中に昭和基地の検潮小屋を管理している海保の48海洋担当夏隊員2名,および,これから越冬中の機器のメンテナンスをお願いする48地圏越冬隊員2名と一緒に,潮汐観測の引継ぎを実施.

夕食はVIPをお招きして48次隊と合同でBBQ.48次にとっては,実質的にVIPと交流する初めての機会となった.48次は明日は休養日ということで,今夜は気楽に楽しんでいることだろう.48次と一緒に飲むこの機会を利用して,北海道内に在職されている48次越冬隊員のお一人に,広報向けの仕事を一つ依頼した.道民には越冬交代後にこの企画をお楽しみいただけるはず.

一風呂浴びてBBQでけむりくさくなった体を洗い,サロンでくつろいでいたら,もっと三浦プロジェクトについて話を聞かせて欲しいと,毛利さんに話しかけられた.

話したことは,三浦プロジェクトそのものというよりも,自分の研究テーマとプロジェクトとの関わりについてや個人的な身上話など.しばらく話をしているうちに,「あれ?君,北大?」ということになった.え〜〜っ.今日まで少なからぬ回数お相手する機会を重ねてきたのに,肝心のことが伝わっていなかったなんて〜〜,って感じで一気に脱力.まあ,北大というバイアスがかかっていない状態で純粋に南極人としての私をみていただけた,というふうに思えば,これでも良かったのかもしれない.

でも,分かってしまえば後は同窓のよしみで,さらに話が弾んだことは言うまでもない.


生中継

朝一で,VIP一行はスカルブスネス巡検に出発.弁当を持たせてヘリポートまで送る.

image午後,報道ステーションの毛利さん中継の準備を開始.私はカメラマン役.

氷床と海氷の白さは何者にも勝る強力な光源で,カメラの設定をそれに合わせてしまうと人物の顔やその他の被写体が真っ黒になってしまうし,その逆だと背景が飛んでしまう.放映時の太陽の方向などを勘案しながらコントラストを調整するのだが,これが結構大変.急遽レフ板を作ったりして対応する.

野外巡検から基地にもどった毛利さんをすかさず中継撮影地点へお呼びして,テレビ局と打ち合わせ.局のディレクターらしき人からの指示でズームイン・アウトやパン操作を行う手はずを決める.報道ステーションは生番組なので,本番に入ってしまうとあとは出番をひたすら待つのみ.でも,その待ち時間の間,大晦日〜新年の中継時のように,実際に日本で放映されている番組を見ることができて,なんとなく得した気分になった.でも,日本からのニュースは凄惨な事件ばかり.

本番はなんとか無事終了したが,太陽の方向などの都合から大陸側を背景に選んだことや,左右への振りがほとんどなかったことなどにより,全体としては単調な画像になってしまったのではないかと反省している.本当の南極らしさをだすのはなかなか難しい.

基地建物外からの本格的な中継は,この越冬では初めてのことで,いろいろと工夫を凝らしたものの,夏の穏やかな気象条件下であったからこそ可能だったという面もあり,一年を通して同様のことをやるのは不可能だろうと思う.

【宣伝】今回の毛利さんたちの南極訪問の内容が下記のフォーラムで報告される予定.

  • オープンフォーラム南極:2007年1月28・29日
  • 第一部(1/28):今井さんと立松さんがパネリストとして出演
  • 第二部(1/29):毛利さんがパネリストとして出演

  • 夕食後,VIPのお三方にお願いしてサイン会を開催.毛利さんの大ファンであるカミさんのために特別のメッセージをしたためていただく.

    image

    夕食後,地学棟で47-48の地圏関係者を集めて引継ぎ開始の顔合わせ懇親会.その後,バーに行ったら皆遅くまで飲んでいる.結局,深夜から明け方にかけての太陽と月を撮りたいと待機していた今井さんにつきあって,南極観測談義をしながら,3時頃まで飲み続けた.


    マルチな私

    元旦以来の休日日課.でも,締め切り日である持ち帰りリストの作成に専念すべし,というお達しが出ている日.

    毛利さんは科学未来館のイベントでS17からネットテレビ会議.日本だけではなく,タイとオーストラリアも結んだ多元イベント.昭和基地は,西オングルに設置した無線LAN中継点設備を経由してS17から届くネット信号を,さらに極地研へ転送するだけの仕事だったので,実際に交信の様子を見ることができず残念.いろんな要因が重なって,たびたび回線が切れたけれど,さすが緊急時のバックアップ・プランが綿密に仕組まれていたようで,それなりにうまくいった模様.

    その後,昭和に残っていた立松さんと今井さんも合流してVIPは「しらせ」へ見学に.

    交信が切れた原因の一つに,昭和基地内のLANの不具合があった.単にS17からの中継経路が不安定だったことだけが原因ではない様子.

    昼食後に,LAN担当隊員と一緒に原因を切り分ける作業を実施.なんとなく原因らしき場所はつかめた.この原因箇所は越冬中もずっとそのままだったものなので,夏オペ特有の負荷のために,これまで潜んでいた不具合が顕在化したのだろう,という結論.

    LANの不具合の復旧を急いだ理由の一つは,明日,毛利さんが昭和基地から報道ステーションに出演する企画があり,今日の午後にその接続試験をする予定になっていたためでもある.LAN復旧の手伝いついでにテレビ朝日との接続試験にも付き合う.こちらは原因を切り分けた後だったので,ほぼパーフェクトに成功した.

    夕刻,VIPがしらせ見学から戻ってきて,一昨日に延期になっていた職場訪問の続きを再開.今日こそは衛星受信棟に来ていただけるということで,ちょっと早めにスタンバイ.しかし,一つ前の情報処理棟でたっぷり時間がかかってしまったようで,夕食時刻直前にようやく衛星受信棟の訪問となった.

    一行が棟内に入ってきて,VIPを出迎えた私の顔を見た立松さんが,開口一番,

    「あれ?三浦組の澤柿さんですよねぇ?」...「(こう言っては失礼だとは思うんですけど)どうしてこんな最先端の(機器のたくさん詰まった)棟にいるんですかぁ?」

    だって.
    それを聞きながら横できょとんとしている毛利さんに立松さんは説明を始めた.

    「毛利さん,三浦組ってのはですね,海の底のドロを採取しようってがんばってるプロジェクトチームのことなんですよぉ.人工衛星とは対極的な土方仕事みたいなことを冬の間ずっとやってきた人たちなんですぅ」

    まあ,突然JARE47の昭和基地にやってきた人たちには,私の立場が一番複雑怪奇に見えるだろう.正式には「極域衛星受信担当隊員」として観測隊に参加しているものの,その実は三浦プロジェクトの参謀役であったりする.他にも,今日の午後にやっていたようにLANの面倒をみたり,はたまた,お外系の野外主任をやっていたりするし,いったい何者?と思われても不思議はない.

    おかげで,衛星受信やVLBIのことを説明する前に,まず自分が何者かを説明するのにしばらくかかってしまった.でも,こうして衛星受信棟で説明役に立たなかったら,この複雑な立場をちゃんと理解してもらう機会もなかっただろうとも思うので,丁度よかったと思う.

    実際のところ,立松さんの驚きは私にとっては嬉しい驚き.土方仕事をしている,と言われるほうがフィールド屋の私にとっては本望なのである.

    VLBI・GPS・合成開口レーダーなどの測地学的な衛星の使い方から生み出される成果は,私が専門としている南極氷床変動の解明にとっても有力な材料になる.まともにVLBIの技術や衛星工学的な話をすることは,雇われオペレータの身には荷の重い話だが,そのデータから応用できる氷床変動解明への道筋については充分自分の土俵に載せられる話題だ.最初は,専門外の質問にどう答えて良いかドキドキしていたけれど,自分の土俵に相手の興味を誘い込むことで,なんとか面目をはらすことができたように思う.

    まあ,毛利さんなんかは,あえて素人を悩まさないように武士の情けで突っ込みを甘くしてくれていたに違いないのだろうけれど...

    棟内の説明の後,実際に大型アンテナが動く様子をみてもらったり,超伝導重力計もみてもらったりして,終了したらすっかり19時を回ってしまっていた.


    撤収準備

    昨夜から小雪模様.毛利さんたちは,大陸からネットテレビ中継準備のためS17へ飛んでいった.ドラム輸送が一段落したところで,視界不良のため予定よりも早く今日のヘリオペが終了.明日のネット中継の天候が気がかりになってきた.

    基地では,持ち帰りリスト最終締め切りを明日に控えて,皆,梱包作業に忙しそう.

    私は,前回の越冬や,帰国後にあちこちの研究室を転々とした経験から,ダンボール箱を収納家具がわりに使えるように工夫して,必要に応じて物をダンボール箱から取り出し,使い終わったらそこへ戻す,という習慣を続けてきた.日本でも,13年前の越冬から持ち帰ったダンボール箱をいまだに収納用に使っているほどである.今回の撤収準備に関しては,その習慣のおかげで,ほとんどやることがない.

    実際のところは,1月末締めの観測データや残っている野外観測と交代後のVLBI観測で大物が出る予定.リスト締め切り間近の今現在ではこれといって作業がなく,なんとなく余裕をかましているので,周りからは遊んでいるようにも見られてしまっているところがあるらしい.適当に忙しそうなフリでもしてみるかな?


    職場訪問

    ドラム空輸はヘリの往復サイクルが早く,一日中飛び回っている感じ.これが終わると,次の隊の食料搬入が始まる.それに備えて,我々の残食料を整理し,次の隊の食料を搬入するスペースを空ける作業を行う.といっても,我々の滞在はまだ二十日間ほどあるので,その分の食材は残して置かなければならず,その見積もりはなかなか悩ましい問題.調理隊員は,実際の調理のほかにも,こうした絶妙な在庫管理もしなければならず,大変な部門であることを再認識した.

    午後からVIPの基地内巡検があるというので,観測系の隊員はそれぞれの持ち場で待機.越冬中に職場訪問を実施しているので,自分の持ち場を説明するのはすでに経験済み.ということで高をくくっていたら,VIP達の興味の感度は想像上に高く,それぞれの棟で予定時間を大幅にオーバーし,半分くらい回ったところで時間切れ.立地上,巡検コースの最後に当たっていた情報処理棟と衛星受信棟への訪問はあさって以降に延期となった.

    すでに訪問を受けた部門担当者の話を聞く限り, VIPからはかなり突っ込んだ質問が飛んでくる模様.私なんかは,衛星受信もVLBIも雇われ仕事.他の皆さんほど深く理解して担当をこなしているわけではないため,戦々恐々の気分である.

    残念なのは,基地内での観測しか紹介できないこと.三浦プロジェクトのことや冬期の野外行動の難しさや楽しさ,問題点のようなことをVIPにも知って欲しいし,その点の説明ならば何時間でも話す自信があるのだが,そういう自分の本領を発揮できる機会はなさそう.現状では,せいぜい夏の露岩調査を視察される機会を活用してもらうしかない.でも,私はその場には同行する予定はない.


    1 153 154 155 156 157 158 159 254