南極
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コンセプト
なにかと人や情報の出入りが多い日.その中の動きの一つで,7月末にやる南極大学の集中講義で昭和基地とのライブ中継が実現できそうになってきた.相方は本講座の講師もやっていてくれた樋口さん.
これまでのライブ中継を使った南極教室にありがちだった「エンターテーメント」の要素はバッサリ切り捨てて,「ごく近い将来の隊員候補に向けた実用的なレクチャー」というのを今回の基本コンセプトとすることにした.
第四紀問題決着とBEDMAP
施設公開二日目.もう一度トーク.同じ内容を二日続けてやると,だいたい二回目は時間が延びる.油断してしまうのかなぁ...
このところ引っ越しの話ばかりなので,最新の情報を少し.

ここやここで書いてきたように,8年近く前からずーっと気にかけてきた第四紀境界問題は,国際層序委員会での投票により8割以上の賛成票を得てINQUA-SQS提案の「Gelasian基底 = 第四紀/Neogene境界 =鮮新/更新境界 = 2.588 Ma」が承認されたということで決着した模様.四紀屋としてはめでたしめでたし.でも反対票を投じた人の言によれば「呼び方は人間側の問題で,名前がどうだって岩石が変わったわけじゃない」ということ.自然科学上の真理は多数決で決めるようなことじゃないからねぇ...少数でも正しいときは正しいんである.温暖化問題なんかは,その典型例かも...
- “Quaternary geologists win timescale vote”:Published online 3 June 2009 | Nature 459, 624 (2009) | doi:10.1038/459624a
- “The Quaternary Period Wins Out in the End”:Science 5 June 2009 Vol. 324. no. 5932, p. 1249, DOI: 10.1126/science.324_1249a
- Subcommission on Quaternary Stratigraphy
ついでに,このNatureの同じ号には,南極氷床の起源に関する論文も掲載されている.
Bo et al.: The Gamburtsev mountains and the origin and early evolution of the Antarctic Ice Sheet, Nature 459, 690-693 (4 June 2009) | doi:10.1038/nature08024
1960年代から南極氷床下の基盤地形を調べるBEDMAPという国際プロジェクトが続けられてきていたのだけれど,この論文は,その不足を補う中国の最新の成果を使って明らかにされた南極氷床の起源に関するものである.ドームA付近のガンブルツェフ山脈を含む南極山塊が氷床の起源で,3,400万年前に谷氷河から成長を始めた,という解析結果が得られた,という.
BEDMAPについては,昨年出した本「なぞの宝庫・南極大陸 100万年前の地球を読む」にも詳しく書いたのだけれど,日本では極地研の藤田さんが担当されていて,この論文の著者にも入っている.
ドーム氷床掘削とかBEDMAPとか,大きな枠組みの中で仕事をされている日本人研究者の成果がNatureに掲載されるのは嬉しいものだ.
ただ,この論文,氷河地形発達に関しては,年代にしろ形態にしろ,あらい議論しかしてない.氷の下の谷氷河地形だからこそNatureネタになる,ということのようなのだが,表面に出ている氷河地形だとしたらこうはいかないだろう.なまじ見えてる地形を扱っていると,こんな大胆な議論を展開しようという気にさえならない.そこがかえって私なんかの弱みになっているような気もする.もっと大胆になってNatureに挑戦してみてもいいのかもしれない,と思ってみたり...
海図
海上保安庁が,南極大陸付近の国際海図を新たに刊行する.これには,15年前の越冬でやった仕事の成果も含まれていて,昨年頃に何度か私の所にも問い合わせが来ていた.
この海図の水深データは、観測船の測深機によるほか、南極観測隊が、氷上を雪上車で移動し つつ氷に穴を開けて、また氷の無い海域ではゴムボートで、1点1点測深した成果を採用しています。
とわざわざ書いてくれているところが泣けてくる.JARE34では,2本もオーガーを水没させて大ヒンシュクを買ったり,手伝いの隊員を確保するのが困難だったりして,ほんとに苦労したからねぇ...今ではGPSもあるし魚探の性能も良くなったから,作業はもっとはかどるはず.
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原稿を一本仕上げて送付.まだ直したいけどいつまでやってもきりがないのでこのへんで切り上げることに.
とある番組製作会社から電話.番組で使うクイズの裏取り取材.内容を書くとネタバレになるのでやめておくけど,私のことろに来る取材など,もう知れたも同然だろう.
突然のつながり
突然,Erlingsson教授から,昨年11月に書いたエントリーを読んだ,とメールが来た.日本語はさっぱりわからないけど,氷河や第四紀に興味があるみたいだから最近の論文も一緒に送る,と書いてあった.
つまらぬBlogでもいろいろ書いてみるもんですな.早速,お礼をかねて,我々がやっているProject-Mの概要とぼちぼち出はじめている成果について返事しておいた.
そういえば,教授の「Captured Ice Shelf仮説」をちゃんと再検討しなきゃいかんね.
そこへ行くべき者
越冬中に「 ここに来るべきもの」というエントリーを書いたことがある.要は,南極観測の基本はなんといっても研究・観測にあるのだから,より多くの研究者が自らすすんで来たくなるような環境作りを目指すべき,という趣旨.この背景には,「新しらせ」の就航や観測隊発足50周年の節目を迎えて,「開かれた基地・観測隊以外の人も南極へ」という展望が出されていることがある.
いよいよ新しらせが就航する今年,「学校の先生を南極に」というプログラムも開始される.まさに上記のスローガンが実行に移されようとしている瞬間でもあり,これ自体は大変良い企画であろうと思う.
一方で,開かれた基地・国際化・開放によって逆に明かされる観測隊の裏事情,などに対してどれだけの施策がなされようとしているのかは,まだよく見えてこない.もちろん,日々の業績やエフォートに汲々としている研究者への参加アピールもなさそう.
昨日までの南極大学の実習に参加していた院生から,南極観測に関わりたい,という情熱が吐露されるシーンがあった.院生であるという前提から,当然研究者として参画したいのだろう,と受け取ってしまうのだけれど,実際のところ,院生レベルで研究第一に南極を考えていることなどそうあることではなく,「南極に行ってみたい」という純粋な希望が根底にある.そういう気持ちを保ちながら,研究者の裏事情もそれとなく教授しつつ,南極観測参画への道を説く難しさを痛感した次第.
一方,セルロン隊で活躍されている阿部幹雄さんの様子や,気水圏担当隊員として現在昭和基地で越冬されている「日本で一番空を美しく撮る男!武田康男先生」のご活躍の様子(こことかこことか)などをみるにつけ,それなりの人生を積み重ねてきた『達人』が,その能力を伸ばし,活用し,次の展開に向けて新たな題材を仕入れる場所として南極観測隊を利用しきっているんだなぁ,と,つくづく感心してしまうのである.「観測隊そのもののありかた」といったディープでダークな課題など,利用する側のパワーでどうでもよくなってしまうくらいのオーラだ.もしかしたら,門戸開放の効果は,こういう側面から出てくるのではないかと思った.
研究者からそういうオーラが出てきそうな兆候を見いだせないのが残念だけれど,私自身としては,ブツブツ言っているだけでじゃなくて,そういうふうに観測隊を利用し,しゃぶりつくしてみたい,と思うようになったし,そういうことが出来るような自分を作るためにも,日常の生活の中で自分らしさの「何か」を積み重ねていきたい,と感じ始めているところ.また,次世代の育成を担っている立場としても,南極観測隊をとりまく人生模様,みたいなことも,しっかり伝えて行かなきゃいけないんじゃないかと思ったりもした.
こういうことに気づくのに随分遠回りをしてきたような気もする.


