1957年の今日,一次隊が西オングルで国旗を揚げ「昭和基地」と命名した,昭和基地50歳の誕生日である.
今日は,記念式典で国内も昭和基地も大忙し.行事は三本立て.まず,「オープンフォーラム南極●第2部」があって,その後,50周年記念式典が挙行され,それに引き続く祝賀会で終了.昭和基地は,これらすべてにネットテレビ会議システムで参加する.
昨夜の秒刻みのリハーサルがうまくいって,ちょっと余裕をかまして床に就いたら,早朝の接続開始時間にすっかり遅刻してしまった.ということで,今日は出演はないものの,裏方でいろいろとお手伝い.
今日の朝日新聞にも南極五十周年の記事.1/4に書いたことが気になって,注意深く記事を読む.「開放」の対象が研究中心であるように読み取ることができる点では,前よりも良くなったんじゃないかな,と思う...こうして記事評を書いたところで,それを書いた記者を評しているんだかそのネタを評しているんだか分からなくなるんだけど...
さて,フォーラム第2部では,この「開放」の部分が焦点となった.一口に「開放」というけれど,私は「なんとなくよさそうな開放」ではなくて「実効性のある開放」でなければいけないと思っている.開放によって何が起こることを期待するのか,何が可能になるのか,どういう不都合があるのか,そのためにどう問題を解決していくのか...フォーラムに求められた議論は,まさにこのような点であろう.パネリストの毛利さんは,開放によって研究界に生じる対立軸を要領よくまとめておられた.
基礎研究〜〜〜〜応用研究フィールド研究〜〜〜〜シミュレーション研究 オリジナル研究〜〜〜〜定常観測個人研究〜〜〜〜チームワーク研究好奇心的研究〜〜〜〜目的研究 越冬隊〜〜〜〜夏隊 国営〜〜〜〜民営 自由〜〜〜〜効率 研究者〜〜〜〜技術者 安全〜〜〜〜挑戦 前線基地〜〜〜〜後方支援 自然科学的評価〜〜〜〜社会科学的評価 国際協力〜〜〜〜国際競争
特に,「国際協力」と「国際競争」は我々研究者にとっては重要な視点で,個人レベルでは「他の研究者に先駆けて」と競争を迫られている中で,同時に協力もしていかなければならないのは,なかなかつらい.「昭和基地にいる研究者が外国人で占められ...」という事態も考えておく必要がある.要は人材育成を徹底して,外国人を受け入れてたとしても日本人研究者がメジャーでいられる状況を死守しなければいけないと思う.
毛利さんがまとめられた対立軸は南極に限らずどの分野でも発生しうるものでもある.しかし,この点でも毛利さんはうまく「南極」の意義を指摘されていて,
厳しい自然環境に対する危機管理を強いられ,かつ高度な科学的成果を要求されている研究環境は研究者個人としてもプロジェクトチームとしても根源的な必要性が問われるので、何が重要か、どういう優先順位にすべきかが顕著に浮かび上がる。
「南極を日本の科学技術研究に共通する課題の解決法をさぐる先駆的実験場として位置づける」のにふさわしい場所である
これまでの流れから,社会的には,環境問題などに対して南極観測に即効的な成果を期待されているように思うが,初期の南極観測にしても今現在にしても,科学と技術の試行錯誤が続く実験場としての要素はまったく減っていないと思う.毛利さんの提言は,フロンティアを開拓するパイロット事業現場として,科学技術研究の中に南極観測を位置づけられており,この案に私も大賛成.
ただ,日本人は改革の前に清算をすませておくことが極端に苦手な人種でもあるから,パイロット事業で得られた成果(つまり改革の種)をどう拾い上げていくか,という視点も入れておく必要があるように思った.
皇太子ご臨席の式典には,しらせ乗員代表も参加して,昭和基地側も不動の姿勢で臨む.昨夜のリハの成果もばっちりで,時間内に通信を終える責務はなんとか果たせた.
祝賀会会場から,一杯入った今井さんが呼びかけてきて,「今日は毛利さんと昭和基地の誕生日なので,まほろBarでお祝いしてくださ〜〜い」とメッセージを送ってくださった.しかし,昨日からの対応や夏作業で疲れ果てた我々は,特別な祝杯をあげることもなく,ただただ今日一日を無事に終えた開放感に浸っていた夜なのであった.
「観測・夏作業に支障のない範囲で対応」と指示してくる極地研の対応は欺瞞だらけ(と言うよりは鈍感).支障がないわけないよ!
むしろ,広報・アウトリーチ活動をちゃんとした業務と認め,「フォーラムで展開される議論は,この現場にいる研究者・観測者・隊員全員も聞いておく必要があるからしっかり対応すべし」ぐらいのことを言って,正式に参加させるぐらいの指示をだしてもらったほうが,こちらとしてはすっきりする.こういう双方の意識のずれも解決すべき点.
昭和基地の情報孤立環境は今や昔話になった.かつてのような越冬浦島太郎はもう生まれないだろう.むしろ,昭和基地という最前線でいろんなことを実感しつつ,しかも国内外の動きがリアルタイム情報で入ってくる状況は,時代を見据え見越した考えを持つのに最適な環境にあるといってもよい.国家戦略規模のことは別として,戦術・戦闘レベルでは,内外の情勢への敏感さという面で昭和基地と極地研の指揮・対応能力は逆転している.もう,国内の旧態に凝り固まった鈍感な指示に従わなれば動けない基地ではないのである.昭和基地の現場感覚,世の中で起こっていることと自分たちの置かれた立場とを比較するバランス感覚に関しては,基地側はもっと尊重されてもよい.
「情報革命」「輸送革命」.これらが次の50年の始まりにおいて南極観測におこりつつある変化である.