南極 一覧

夜間氷上輸送

image2日の夕食後から3日朝にかけて,徹夜で,持ち帰り大型廃棄物を氷上輸送.持ち込み物資輸送は新旧の隊の共同作業だが,持ち帰り物資輸送は陸上・氷上ともにすべて我々の仕事となる.久しぶりに大陸の高気圧が張り出して南風となり気温が低下.その後カタバの強風にかわる.おかげて,夏のポカポカ作業になれきった体はすっかり凍えてしまった.

鉄くずなどがつまった1t近い重量級のリターナブルパレット40梱あまりが今夜のノルマだったが,ガシガシやっていたら日付が変わる前には目途が付いてしまった.残りの時間は廃棄物が詰まったスチールコンテナの重いクラスを輸送.この調子だと,3夜かかるとの見積もりよりも短くて済みそうな気配.

image輸送終了後の朝食をすませて,そのまま海氷厚測定装置の引継を兼ねた試験で48次隊員に同行.久しぶりに岩島まで出た.あちこちにパドルができはじめている.

岩島方向からみるしらせはまた格別にかっこいい.

まだ午前中だが,私にとっての3日はこれで終わり.夕食まで睡眠をとった後,またまた徹夜の氷上輸送に突入.


厄年

今年は本厄.人生の曲がり角,体力的にも社会的立場においても負担が増えて,なにかと不安定になりがちな年,ということである.

今夜からの夜間氷上輸送にそなえて,午前中に見晴らしまで貨物の集積を行い,午後は仮眠を取る.仮眠中に厄年の混沌とした夢を見た.なにかの暗示か?でも,南極にしても帰国後のことにしても,控えめにおとなしく過ごすだけの余裕は与えられていないのが現実.

助教問題に関して,うちの組織は他とは違う複雑な事情を抱えている.研究組織としての「研究院」と教育組織としての「学院」の二重組織になっているからである.基本的に助教としての身分は「研究院」で移行が承認されることになっているが,「学院」教育参画のための資格審査も前後して行われる.そのための資料を提出するように通達が来ている.

いろいろ疑問点があったので,しかるべき立場の人に問いあわせたら,『我が研究院の助教にはぜひとも学院の教育に参画してもらわなければ困る』という返事.ということは,学院教育への参画はこちらから求めるものではなくて,学院から要望されるっていう立場だという理解が成立する.それならば,「研究院における審査の結果,助教への移行が承認されました.つきましては,助教として学院への参画をお願いしたく,その審査のための資料を提出してください.」と通知するのが筋のような気がするのだが...しかし,研究院での審査結果ももらっていないうちに,学院から資料提出の通達が来ているのが現状.要望する側が「審査」するってのは,なんとも不思議な構図である.

結局,踏み絵をさせられているのは,助教移行対象者ではなく,移行を指示されている組織運営者側なんだ,と思った.

今回の助教移行措置は,就職のような自分を売り込む機会ではないし,契約更新や本質保証のような,職務に見合った仕事をしたかどうかの評価をされているわけでもないと思う.それだけに,むなしさだけが募る措置なのだけれど,幸か不幸か,大学教育史上,歴史的ともいえる節目に当事者として関わるまたとない機会を得たからには,ただ流されるだけの対応はしたくないと思う.

控えめな行動を推奨される本厄の年なんだけれども,学院参画審査に関しては,ちょっと高飛車に出てみようかな,という気になりつつある.


謹賀新年

image4回目のIPY(国際極年)開幕の年.極域研究が大幅にクローズアップされることを期待.そういう年ですが,本年もよろしくお願いします.

日本より6時間遅れで年が替わる時間,テレビ朝日とのネットテレビ中継に出るため,まだ元気のある隊員が食堂に集合.年越しそばを食べたり除夜の鐘をついたりしている様子を背景に,越冬隊長が出演.白夜の太陽が赤く大陸を染めている様子を眺めながら,ネットテレビシステムに流れる日本のテレビ番組を見ながら昭和基地で新年を迎えることになった.

調理隊員が腕をふるって作ってくれたおせち料理と雑煮をブランチにいただき,明日から始まる徹夜の氷上輸送作業にそなえてゆっくりと一日を過ごす…というわけにもななかないかず,たまったメールへの返事を書いたり,論文原稿に手を入れたり,月例報告を書いたりしていたら,もう一日が終わっていた.

今年一年もこんな感じで過ぎてしまうのだろう.


大晦日

午前中にボンベ関係の氷上輸送.これで年内の仕事納め.48次隊は,しらせでそろって年越しするということで,夏宿から引き上げていった.

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午後,鏡餅や雑煮用のお餅つき.

除夜の鐘つき用にドラム缶でつくった梵鐘もセッティング完了.実家の鐘は,今年はだれがついているのだろうか?

夏オペの多忙にかまけてじっくりこの一年を振り返っているヒマも無いけれど,一緒に越冬している仲間はもちろん,日本の留守を守っていてくれる家族,職場の方々等々,多くの方々にお世話になった一年だった.こころより感謝申し上げる次第.


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早朝にしらせが再接岸.急患の往診から夜通しかけて戻ってきたらしい.さっそく午後から氷上輸送も再開.水っぽい雪がちらつき,時々吹雪く悪天の中,Cヘリポート改修資材を見晴らしに上げる.

夕食後,当直だった副社長が「虫」を発見.オーストラリア産のセロリについてここまでやってきたらしい.たっぷりのエサに囲まれて適温の倉庫に保管されてきたようなものだから,生きていて当然だが,さすがにこれはめずらしいかも.一匹いるということはきっとほかに何匹も,どこかにいるに違いない.


つかの間の休息

しらせがいなくなったので氷上輸送はなし.隊長判断で休養日課となる.重機やトラックの音もあまりせず,基地主要部は夏オペ中とはおもえない静けさ.

救助活動がすんなり終了したようで,しらせは明日にも戻ってくる模様.輸送作業もすぐに再開される予定.つかの間の休息日となった.


帰還命令

image昨日にひきつづき,今度は48次の測地・海洋グループが昭和へ帰還.スカーレンに残ったのは我々二人きりになった.スカーレン露岩の地形踏査.擦痕や水流痕と堆積物との分布関係をマッピング.

天測点にいってみたら,ま新しいペンキで巨大な対空標識が塗られていた.地理院から派遣されている測地担当隊員の仕事にちがいない.地球観測衛星だいち(ALOS)の可視センサーでも捉えられるように大きくペイントしなおす必要があるのだとか.この標識が映った衛星画像をみてみたいものだ.

夕食後,ワインを飲みながらテントでゆっくりしていたら,定時交信でなにやら重要な通知があるとの知らせ.

話の通じにくいHFからイリジウムの電話に切り替えて詳細を聞く.南氷洋の漁船で発生した急病人の診断に向かうため,しらせが一時昭和基地を離れることになったらしい.それで,野外にいて緊急時の対応が難しいパーティを基地に収容することに決まったという.

あと一時間くらいでピックアップに向かう,というので,あわててキャンプの撤収作業にとりかかる.あいにく天候は雪.ときどき吹雪ぎみになる.テントをたたんでしまうと,あとは露天で耐えるのみ.

ときどきイリジウムで昭和基地と連絡を取りながら待つこと2時間.ようやくヘリがやってきた.ちょうど雪もやんで,スカーレンでの調査に未練を残しつつ昭和に帰投.

我々を回収するのを待っていたかのように,日付の変わる頃にしらせは医者を載せて反転していった.

ということで,しらせが戻って夏オペが正常に復帰するまで基地にいることになった.正月は野外で,と思っていたけれど,緊急事態につき思わず昭和基地で年末年始を迎えることになる.


偵察

image本格調査に備えてスカーレン一帯の偵察.

まごけ岬の先に見える氷床の末端から融解水が勢いよく流れ出ていた.氷床の表面や内部を伝って集められた融解水だ.

48次の地物グループが一足先に昭和へ帰還.


サスツルギの亡霊

相棒が一人で歩きたいというので午前中はテントで休養.お昼過ぎからGPSを持って三角点巡り.途中から48次の一行と合流.

午前中にテントの中で「サスツルギの亡霊」 神山裕右著・講談社を読んだ.我々47次隊が日本を出発する直前に出た小説で,夏隊で先に帰国した福井・高野さんが48次隊に託して送ってくれたもの.

昭和基地を舞台にした推理小説.越冬明けの夏の露岩のテントの中で読むには充分すぎるほど楽しめるストーリー.昭和基地や観測隊の生活などがけっこう子細に描かれていて,著者自身が観測隊員だったことがあるのではないかと思うほどよく書けている.今や昭和基地が我が家同然となってしまった身としては,あちこちの場面が生々しく起想されて,まるで自宅で起こった殺人事件ミステリーを読んでいるような気にすらなってしまった.それだけに,実際とはちょっと違うんじゃないかな,と思うところには過剰に反応してしまう.たとえば...(以下ネタバレ注意)

ストーリー展開に重要な地理的場所として「立ち待ち岬」という地名が出てくる.登場人物の会話中にもよく使われているが,実際の観測隊では,このへん一帯のことを「見晴らし岩」と呼ぶことが圧倒的に多い.「立ち待ち岬ってどこ?」っていう隊員も結構いると思う.文学的には「立ち待ち岬」のほうがなんとなくロマンチックだったりするし,ストーリ上の含蓄があったりするんだろうけど...

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容疑者が居住棟の倉庫に一時監禁される場面.倉庫にはスキーなどの野外装備が無造作に投げ込んであるという記述だが,実際にはここは文庫本やマンガなどの書庫になっていて,監禁される悲壮感は全くない楽しいスペースである.また,監禁者を見張る隊員に武器として与えられているのがインパルス消火器だったりするところはなかなか.

アンテナ島にレドームがあるような記述があるけれども,実際にはアンテナ島には各種パラボラアンテナのレドームは一つもない.小説中で登場するセスナやピラタスはすでに極地研はこれらを所有しておらず,昭和基地の駐機場(といっても海氷へつながるドリフトの雪面だが)も現在はない.また,旧焼却炉棟も撤去されている.発電機が三機あることになっているが,現状は二機.火力発電と書かれているけれども,火力でスチームを作ってタービンを回しているわけではなく,ディーゼルエンジンでの発電である.小説ではインマルサットは使っているようだが,インテルサットでのインターネットについては記述も少ない.小説中では雪上車の40は幌タイプしかないようだが,現状では金属パネルで荷台が覆われている改良型も導入されている.これらのことから考えて,少なくとも45次以前の昭和基地を想定して書かれているようだ.

image細かいところで言えば,食堂でお茶を飲むシーンで,自分のコップを取り出すという動作が描かれている.確かに隊員はマイカップを食堂の角にある棚に用意していて,コーヒーやお茶を飲むときにはそれを使っている.

ショウワギスを釣って,それが唐揚げで出てくるだろう,という会話が挿入されている所とかは本筋とは関係ないけれども,知ってる者にとってはこころにくい演出だったりする.夏宿の「赤い椅子」に座る,なんて書き方も,知らない人にとってはどうでもいい記述のはずなのに,こっちとしては嬉しくなってしまうようなことだったりするんだよねぇ.マニアックな喜びかも...

最後のほう(p290)に,南極(というより観測隊)の魅力について書かれた一文がある.短いけれども共感できる一文である.

こんな感じで各場面の一つ一つに自らの越冬生活を重ね合わせることができる.この小説を読みながら,そういえばあそこの写真もまだ撮ってなかったなぁ,なんて思ったりして,もう一度確認しておきたかったり再訪してみたくなったりする場所がたくさん出てきた.滞在期間も残り1ヶ月となった.この期間中にやっておくことリストに入れておこうと思う.


野外で初顔合わせ

氷上輸送が続く中を抜け出して,お昼過ぎにスカーレンへ出発.48次の地物・海洋・測地グループが先発していたが,我々は47次独自の夏期野外オペということで彼らとは行動は共にせず,宿泊サイトも違う場所.

夕食後に48グループが宿泊しているカブースを訪問.彼らとは昭和基地では対面していなかったので,初顔合わせとなった.


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