北方探査開始
朝寝坊.集合時間に電話で起こされて雪上車へあわててけつける.来月の野外計画をとりまとめていて夜更かししたせいもあるが,連日の長距離通勤で疲れが溜まっている.
今日はいよいよ北方海域での音響探査を開始する日.中継点から帰ってきたばかりのドクターも支援に来てくれて助かる.お昼すぎまでかけてセットしたサイドスキャンソナーを通しているうちに,ウィンチがオーバーロードで停止.ワイヤーの角度が悪く,そりにこすれていた.この箇所は前からも改良しなければいけないと気になっていたところ.南極は些細な不備も見逃してくれない恐ろしいところである.
結局,ウィンチそりの方向とワイヤーの張り具合をなおしたところで時間切れ.夕食後のミーティングが終わった昭和基地に帰投し,ぺこぺこのお腹に取っておいてもらった夕食をかき込む.そろそろこの快晴続きの天候も終わりらしい.早いところ片付けなければ...
帰ってからメールを見たら,Shaw教授から論文のコピーが送られてきていた.近々Blackwellから出版される”Glacier Science and Environmental Change” という本の抜粋で,氷底水流仮説に関するBenn & EvansとMonro & Shawの議論の大激突.じっくり読みたいのはヤマヤマだが,疲れきった頭にはとても入りそうにない.都会ならば,長時間でも電車の中などで読みながら出勤できるけれど,揺れ揺れの雪上車の中ではとてもそうはいきそうにない.落ち着いたら,コメントを教授に送ろうと思う.
ワイヤー通し
北方海域で,昨日までに海氷に開けた孔へワイヤーを通す作業.マイナス29度まで冷え込む.
開けた孔は一晩で数十センチほど再凍結してしまうので,海氷掘削機でさっと開け直す.日帰りでちょっとづつ作業をしているのでやむを得ないが,これが結構面倒.ドリルの歯を入れようとした直前に,再凍結面を突き破って孔からアザラシが顔をのぞかせた.アザラシに孔を保持していてもらいたい気分.
夕食は,中継点旅行隊の帰還祝賀会.
孔開け2
日帰りでちまちまと北方海域探査の準備.今日はもう一つ孔を開ける作業.
中継点旅行隊が36日ぶりに昭和基地に帰着.食堂が久しぶりに満席.
北方ルート工作3
昨日よりも10kmほど延ばしたところで北方ルート工作を完了.終点から先は,巨大なプレッシャーリッジと乱氷帯で走行は困難.
水平線の彼方に浮き上がった氷山の蜃気楼を望む.ここまで来ると,ほんとに沖合に来たなぁ,という感じになる.しらせに乗っていた頃がなつかしい.帰路の雪上車の中に差し込む日差しが暖かく,思わずうとうとしてしまう.太陽のぬくもりを感じるのは久しぶりで,ちょっと嬉しい.逆に,海氷が融けないか心配になった.気温はまだマイナス20度近いけれど,南極の春は確実に近づいている.
一昨日のルート終点もそうだったが,海底地形図に200mの等深線が引いてあるあたりは,海氷状態が変化する線でもあるようだ.この200mの等深線がどのように引かれたのかは定かではないが,測深データ以外の何かも参考にしているのではないかと思えるくらい,なにかはよく分からないけれど,この位置を境にした変化は確実に存在する.
北方ルート工作2
昨日に引き続き,北方海域へのルート工作.昨日の結果を7月11日撮影のENVISAT SAR画像(Cバンド・波長5cm)に重ねたところ,5月に流されなかった古い海氷の上を移動していたことが判明(緑の線).終点付近で迂回した氷山が決め手になって,画像にGPSデータを正確に合わせることができたことによりはっきりした.
実はこのルート,ドリフトやら乱氷やらで,走行がかなり大変.なによりも,道板を渡さなければ越えられないような幅のクラックもある.というわけで,本日,もっと良い海氷面に作り直すことにした(今日のルートは赤の線).
今日の海域は一度開いているだけあって非常に平ら.積雪も少なく走りやすい.ペンギンセンサスでも使えるように,ルッカリーのあるオングルカルベンを経由して北上するように設定した.
持ってきた旗竿を全て使い切ったところで引き返す.フィールドアシスタントによれば,越冬開始直後に1200本余り作った旗竿は「もうない」とのこと.通路棟での旗竿作りがまた始まる.とりあえず,残り物をかき集めてもらって,明日の延長作業に備える.
北方ルート工作
プロジェクトの第二弾として,オングル島北方の大陸棚海底探査を行う予定.そのためのルート工作に出かける.
プロジェクトの探査対象海域はいくつかあるが,北方には頼りになる陸地がないので,海氷が安定している今のうちに済ませておく必要がある.海氷上での宿泊は厳禁なので,日帰りで作業ができるぎりぎりの場所で,しかもなるべく大陸から遠い海域をねらうことになる.
ルート工作の途上で,おおきな海氷の割れ目が出てきた.その周辺で皇帝ペンギンの足跡を確認.とっつき岬とオングル島方面へ向かっている模様.皇帝ペンギンの大きなルッカリーは,昭和基地の東北東100km以上離れたところにある.今頃から10月にかけて,ひょっこりと基地までやってくる皇帝ペンギンを見ることができるけれど,それも運次第.今回比較的新しい足跡を確認できたので,少なくともこの付近を徘徊していることは確実.
Only One
今回の海底探査プロジェクトは諸々の事情により単年度で終了する.今越冬中の作業はまだ続くけれども,これまでに蓄積してきたノウハウの量は相当に大きい.そうした経験は,論文やその他の文章でなかなか伝えきれない内容も多い.後継プロジェクトが未確定な状態で,それらの知識・経験をどのように次世代につなぎ発展させていくかが大きな課題であるように思う.
「世界に一つだけ…」というのは一見美しい言葉で,オリジナリティを要求される研究の世界ではだれもが目標にする言葉でもある.私も好きだ.しかし,Only Oneというのは,実は常に絶滅の危機にさらされていると言うことでもある.DNAを引継ぎ,世代を経る毎に発展していくための多様性と適応の可能性を備えるには,十分な個体数を確保していなければならない.
はたして,Project-Mに後継者は存在するか?残念ながら,今次で絶滅してしまう技術と経験になってしまう可能性は非常に大きい.
氷床深層掘削技術は30年,深海底掘削技術も数十年の蓄積を経て今日の成果につながっている.その比でいえば,分厚い海氷下の掘削技術は緒に就いたばかり.長い目で継続・発展性を見守ってくれるようなパトロン,あるいはしぶとく継続してくれるような賛同者を得なければ,新たな展開はないだろう.かくして,海氷下の堆積物は未知のまま残されることになるのである.
スカルブスネスからの帰路の雪上車の上で,こんなことをつらつらと考えていた.








