Takanobu Sawagaki沢柿教伸

Takanobu Sawagaki

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flag.gif エドモントン滞在記
2002.4.1〜4.15
4月1日(月)

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もう春と思って喜んでいたら今朝の気温は-18度.風もあって体感温度はさらに低い.

日本のNHKに相当するCBCでは,本物のニュース画像をうまく組み合わせ,本物のニューススタジオを使ってApril fools Newsを放送していた.ニュースキャスターだけは本物のそっくりさんなので,ようやくジョークと分かるほど本気.英語や習慣の違いでジョークの内容が良く分からないのが残念.


昨日,Shaw教授からMars Global Surveyorに搭載された Mars Orbiter Laser Altimeterによる火星表面の陰影画像USGSのWebサイトで公開されていることを教えてもらい,本日早速みてみる.公開日は今年の2月だから,最新の情報と言える.全球分をダウンロードすると1G以上になる.残念ながら,公認火星地図で北緯40.8度、西経9.6度にあるという「人面岩」は特定できなかったが,以下に私が興味を持った地形の一部を紹介する(注意:これはApril foolsネタではなくマジ).

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mc10.tifの一部
水流地形のようにみえる.このティアドロップ状の地形はドラムリンそのもの.
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mc11.tifの一部
水流地形のようにみえる
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mc08.tifの一部
ハンモッキーモレーン状の地形(上部),および
マージナルモレーンとそれを切り込む水流地形のようにみえる地形(下部)

夜,1968年から1979年そして1980年から1984年までカナダ首相を務めたピエール・エリオット・トリュドー[Pierre Elliott Trudeau]氏の生涯を描いたTVドラマを観る.実は昨夜からの2夜連続ドラマだったのだが,昨夜はディナーに行っていて見逃した.今夜は後半の第二話.番組を制作したCBCでは,News Indepthの項目でも詳しく取り上げている.

ネットの検索でトリュドー氏について日本語の詳細な情報が得られたのは“Letter from Abroad”というサイトの記事だけ.このページにしても,CNNの英文をボランティアで翻訳して公開したもの.私自身,カナダの政治家なんて全く知らなかったとはいえ,日本語の情報もこれだけ少ないとはやや驚きである.

トリュドー氏について私がとやかく言うよりも“Letter from Abroad”の記事を読んでいただいたほうが早い.ただ,氏の功績はカナダにとって非常に大きく,良きにつけ悪しきにつけ,その影響は現在でも色濃く残っているという事だけは記しておく.特にアルバータの石油成金達の彼への反感はまだ強いらしい.また,ドラマの演出でも強調されている氏の貴族的な身のこなしやセンスの良さ・エネルギッシュなキャラクターは,日本の小泉人気と相通じるところもあるように思ったが,日本の狭量な政治家と比較してはカナダ国民とトリュドー氏に失礼か.

外国からの要人との晩餐会の席で,薄くなった髪をなでながらフランス語で挨拶するシーンを観て,思わず日本のO教授を思い出してしまった...ドラマは英国からカナダ憲法を取り戻すところで終わる.大きな仕事をやり遂げて,ハンチングにコートをはおって物思いにふけりながら夜の街を歩く姿なども,ちょっと似ているかも...

一人の政治家の生涯を通して,カナダという国の成り立ちや現在のカナダが抱える問題が見事に浮き彫りにされていて,カナダへの理解が一層深まった.前半,再放送しないかな.

4月2日(火)

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今週一杯寒気が居座る模様.自転車通学するにはまだ早かった.Shaw教授は依然体調が悪いのかお休み.

夜,1947年にアンデス山中に墜落したサンチャゴ行きの飛行機についての謎解きTV番組を観る.墜落当時の捜索では発見されなかった機体や遺体の一部が半世紀以上たった最近の調査で氷河の末端付近で発見された.事故は何らかの理由で山に飛行機が激突したもので,氷河上に墜ちた機体がその衝撃で発生した雪崩で覆い隠され,そして氷河内に取り込まれ,50年後に消耗域まで運ばれて表面に出てきた,という解釈.

グリンランドでは,先の大戦中に氷床上に不時着した機体が,氷床中に埋もれているのが見つかっているという例もあるとか.例によって番組のサイト には Teacher's Guide もあり“氷河の流れについて考えてみよう”という項目もある.

この事故にはもうひとつミステリーが残されている.それは,墜落直前に事故機から発信された“STENDEC”という不可解なモールス信号.この解釈については,番組のサイトが視聴者の意見を求めている.応募してみては?

4月3日(水)

まだまだ氷点下の気温が続く.Shaw教授も4月のこの寒さには驚いていた.

夏の野外活動にむけて,ガイドブックやホームページをみながらあれこれプランを練っているところ.外に出てしまえば旅の気分にどっぷりつかれるとはいうものの,エドモントンは州都のわりには,まず最初にそこから外に出るのが不便な都市である.鉄道の駅は市バスの通過ルートにすらなっていない.日本やヨーロッパのように,最寄りの駅から列車に乗ればあとは時刻表を片手にあちこちまわれる,という環境ではない.ロシアに次いで広い国土を持つ国だからこれもしかたのないことだが,拠点となる場所に移動するだけで半日〜一日がかり.ロッキーのトレッキングでも,ジャスパーやバンフで宿泊することとレンタカーの調達は不可欠なようだ.

まあ,交通の不便さはなんとか我慢するとして,一緒に歩いてくれる人がいないのがやや寂しい.アプローチも長いだけに話し相手が欲しいなあ,と思うこの頃.ということで,日本からのお客さんは大歓迎.だれか旅のパートナーになってくれない?

4月4日(木)

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午後,Rains教授の講義.アルバータ南西部の河川の発達史について.あと一回でRains教授の講義もおしまい.教授の講義は南極・ニュージーランド・アルバータ,といろんな地域と現象に及んだが,どれも非常に面白かった.論文で内容を読み知っていても,実際に話を聞くとまた印象が違う.特に,堆積物や地形の分布からそれらの成り立ちを復元する“地形発達史”的仕事のセンスの良さには圧倒される.決して最先端の技術を使っているわけではないのだけれど,地道な現地調査と卓越した時間・空間認知力,およびそれらを自在に図表に表現する力で,説得力有る仕事を積み重ねているように思う.

数学や物理学で,難解な問題をセンスのある解法によって解いていく,という天才がいるのと同様に,自然地理学にもセンスの良い研究というのは存在する.センスの有無に由来する能力の差というのは,くやしいけれども存在することを認めざるを得ない.センスは個性や生い立ちなどの環境に左右される天性的面が大きいように思う.訓練によってもある程度身につけられるものだとは思うが,教育で良いセンスを会得させることは容易ではない.“学は教育できても術の伝達は容易ではない”ということか.一方私のような凡人が“優秀な人が発揮するセンスの良さ”に気づくためにも,それなりに特定の学問に精通しているか慣れ親しんでいる必要がある.少なくとも“この研究はセンスがいいね”と他人の仕事を評価できるようになるまでには学生を育てたいものだと思う.

Rains教授の仕事は決してグローバルに一世を風靡するような内容ではないけれども,私はこういう地道な仕事が好きだ.そのRains教授も氷底水流派の一人だから,一層こころ強い.

4月5日(金)

湿った雪.

こちらでも花粉症が深刻なようで,天気予報に花粉予報が出るようになったし,薬のTVCMも増えてきた.予報される花粉の種類はポプラやシラカバの北方系樹種で,杉はない.たぶん北海道もこちらと同じ樹種の花粉症が問題になるはず.花粉症は樹種ごとに耐性も違うんだろうな.

そういえば,札幌ではしばしば鼻風邪をひいたり恒常的に鼻孔が荒れぎみだったが,こちらに来てから呼吸器系の調子はすこぶる良い.これも空気の違いのせいか?

4月6日(土)

今日も湿った雪.サイクリングに出かける計画を断念.

伝え聞くところによると,ヤングサンデーで連載中の「極リーマン」の展開は,JARE35でしらせが接岸できなかったときの状況そのものとか.なんと最新号では浮上性能を誇るあのSM31パドルに消えてしまったらしい.一台しか無いのに...大事なものを海に沈めてしまった気持ちは良く分かるよ...でもパドルって海氷上の水たまりだから海水に突き抜けていないで底が残っている場合もあるんだよね.うまくすれば引き上げられるかも.

マンガでは研究者が悪者に描かれているらしいけど,実際のJARE35では,H教授が,徹夜で雪上車の配車とソリの引き回しを担当していた.私は昭和基地でイライラして待っていただけだけど...

4月7日(日)

0407.gif午前中,洗濯の待ち時間に裏のリンクでスケートをしようとしたら,リンクは厚い積雪に覆われており,その雪をかき分けてみたら氷がほとんどなくなっていた.滑るのはもうムリだ.ここで滑る機会もなくなったかと思うとやや寂しい気もするけど,さんざん楽しんだからもういいか.午後になって久しぶりに晴れてきたので散歩にでかける.Snow Valleyスキー場はもうやっていなかった.日差しが違うと見慣れた風景も新鮮に見える.


みずほフィナンシャルグループのシステム障害は,統合の難しさ・危うさを露呈している.問題が表面化しているのがコンピューターのシステムであるだけに,3/2628コラム「IT時代の大学運営と国立大学の独立行政法人化」の指摘が的中しているような気がする.塩川財務大臣はじめ多くのみずほ批判が出ているようだけれど,統合化をすすめさせるような政策自体への反省はないのだろうか?

国立大学の法人化推進論の根拠として,民間企業的経営の成功例と競争原理をモデルとすることに傾倒する主張が目立つ中で,バブル経済の弊害とそのバブル崩壊後の回復が不調なこと,そして今回の混乱の事例を見るにつけ,その手本とすべきモデルの正当性がますます疑わしくなってきた.

ISIの発表で,分野別に引用数が多い上位0.1%の「ホット論文」の本数で日本人がトップになった,というニュースが報じられている(たぶん生命科学分野のことだろう.ISIのサイトで原典にあたろうとしたけど見つからなかった).法人化の本来の目的が研究レベルを引き上げることにあるのならば,こうした成功者の意見をもっと聞くべきだろうと思うが,ノーベル賞受賞者でさえ,その意見が審議会で尊重されていないという話も聞くので,今の法人化路線が適切な政策なのかどうか,本当に疑わしい.

といっても法人化やTop30の意図は,組織レベルの向上にあるのであって,決して個人には向けられてはいない.だから,ノーベル賞学者一人ぐらいの意見も制度を審議している人達にとってはどうってことないのだ.一方,組織のほうは,その業績を評価してもらうために,構成員が生み出す業績を非常に気にしている.いっそのこと,ノーベル賞受賞者に一年毎か半年毎に全国の大学を転職してまわってもらって,すべての国立大学がノーベル賞受賞者の在籍記録を業績欄に記載できるようにしてしまったらどうだろう.それほど,学問の成果を組織単位で評価することはナンセンス.学問の成果は個人単位で評価され,そして研究・教育環境の充実度で組織が評価されるべきなのである.

4月8日(月)

昨日(四月第一日曜日)からDaylight Saving Time.それを知らずにいつもの目覚ましラジオで起きたら,DJの兄ちゃんが「1時間進んでいるから注意しろ〜」と叫んでいた.それを聞いて飛び起きて急いでバス停に向かう.自分の腕時計はまだ1時間遅れていることに気づかずに,いつもの調子で8:27の大学直行バスを待っていたけど一向にやってこない.向かい側の住宅街を通る別路線のバス停に学生達が集まりはじめているのを見て,ようやく世の中が9時台であることに気づいた.

研究室への階段の踊り場ですれ違った女性にウィンクされてドキッとする.どうやら,私が眠い目をぱちぱちさせていたのをウィンクと間違って返事したらしい.これで本当に目が覚めた.

甘露の雨ではなかろうが,どんよりと曇った肌寒い一日.


またまた,シャクルトンの番組を発見.7日夜と今夜の二夜連続で,ケーブルTVの“Biography”というチャンネルで放映された“Ernest Shackleton: Looking South”という番組.番組そのものはA&E Network Studiosという会社がつくったものらしい.残念ながら,我が家ではこのチャンネルを契約していないため視聴はできないとあきらめていたが,ためしにチャンネルを回してみたら画像だけは白黒で見ることができた.どうやらエンデュアランス号の再現ドラマらしく,シャクルトンに扮する役者のまあ良く似ていること.

ここ数年,出版される本の数といい映画やTV番組の数といい,どうやら“シャクルトンブーム”らしきものが巻き起こっている感じだ.

4月9日(火)

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学期末も近づき学生達は忙しそう.同室のクリスのところにも質問に来る学生が増えてきた.廊下にはPlagiarismを警告するポスターが張り出されている.

そんな中“ハイテクでレポートのカンニングを防げるか?”というページをみつけた.Webで研究論文や期末レポートが販売されている,ネットに掲載されている論文からの盗用が横行している,教師や論文審査側の対抗手段もまた開発され販売されている,などの事態を報じる記事.

同様に,すでに1999年にはハイテクカンニングの問題を指摘する記事が掲載されており,そこには,アイオワ大のRocklin教授が1996年にインターネットで公開した「Downloadable Term Papers: What's a Professor to Do?(論文がダウンロードできる時代に教授は何をすべきか)」という論文の紹介があった.

Rocklin教授の論文によれば,レポートの販売は昔からあったけれどその行為がネットやワープロの登場で助長されている,ということが問題らしい.また,Downloadable Term Papersへの教員側の対抗策が挙げられているが,結局は,最後に記されている「もっと深刻な事態への兆候」の指摘のほうが重要だと思う.つまり,盗作レポートを出すような学生は,そもそも教員の目指すゴールを欲してはおらず,教員と敵対すらしている,という指摘である.学ぶとはどいういうことか,教えるとはどういうことか,について深く考えさせられる論文である.

私も実際にTerm Paperのダウンロード先を検索してみたら,販売サイトがゴロゴロ見つかった.もちろん全部英語.こんなに盛況になるほど,Term Paperってたいへんなのね.欲しいトピックのレポートをキーワードで検索できるのでやってみたら,氷河や地形ではほとんどヒットしない.地球温暖化や南極条約等だとすごい数の例文がヒットした.大変な世界を発見してしまった.こういう面でも英語圏の学生は恵まれている(?)よなあ...熱心に勉強しているUAの学生諸君がこれを利用することはないと信じているけど...

学生がレポートの消費者なのであれば,生産者は一体だれなのだろう?今や学位をとってもなかなか就職できない時代である.クリスに聞いてみたら,そいう就職浪人中のオーバードクターの収入源にもなっているんじゃないか,という意見だった.モラルには反するけど,それもなんだか涙ぐましい事情のようにも思える.日本でもこういう商売は需要も供給もあるんじゃないか,とついあらぬことを考えてしまった.でも,そもそも日本では,期末レポートを課すのは一般的ではないから,商売にはならない可能性も高い.

この記事の中の言葉に「われわれ大人の行動が,一番大事なのは私だ,私だけが前に進めればいいんだということを強調するような土壌を作りつつある。子供たちはそんな親たちの行動を見て,人生で成功するためには法やモラルにかまわず自分が望むものを獲得することが大切だ,ということを学んでしまっているのだ」というのがあった.学校でも政治でも,この言葉は日本ではかなり前から言われてきたことだ.アメリカもようやくその事態に気づいたか,って感じ.

覇権主義のアメリカが,こういう落とし穴に墜ちるのは当然といえば当然.なんだかんだと理想視されるアメリカだけど,こういう裏事情もあることを見逃してはならない.根本的な解決は覇権主義を改めるところまでいかないと無理だろうと思うが,一部の突出した良識者や優秀な連中がなんとか欠点を補って支えてしまうからタチが悪い.

一方,腐敗の進行度・浸透度は日本のほうが先を行っているだけに,下手にアメリカ風の期末レポート制度を取り入れれば,ハイテクカンニングをする学生とのいたちごっこが始まるのは目に見えている.腐敗先進国の日本が,この問題に真剣に取り組んできていれば,問題への対策もアメリカの先を行けるはずだったのに.現実はそう理想的にはいかないことは,昨今の大人がやっている政治と教育改革をみていれば良く分かるというもの.

本当にやるべきことは,日米の社会に蔓延している“人より前に進むこと=人生の成功”という誤った構図や認識を壊すこと.そして,だれもが思っている“一番大事な私”をどうしたらより良く磨くことができるか,という視点を見いださせ,その気にさせるような教育をしていくことだろう.

ちなみに日本では,学校の先生向けに例文集ソフトが売れているらしい.通知票や指導要録に記載する所見用のもの.面倒な記載の時間を節約できるという効果よりも,「けんかをしやすい」と書くところを「他人との協調性を確立するのにやや難がある」なんていうふうに,当たり障りのない玉虫色の表現にできることが好まれているとか.

4月10日(水)

















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Daylight Saving Timeへの切り替えは初めての体験だけど,これがなかなか.1時間早くなっただけなのに,一気に日がのびた気がする.今のところ完全に日が暮れるのは21時頃.でも気温はまだ氷点下に下がる.

来年度から使われる高校の教科書の検定についてのニュースを読んでいると,はやければ7年後に大学院にやってくる院生への対応について考え始めなければならないかな,と思う.欧米では高校まではそうでもないけど大学に入ってから猛烈に勉強するという.実際,ここの学生も良く勉強する.“大学だから勉強するのは当然”という意識が徹底している.Shaw教授の話では,1年以内に退学する学生の率が高く,のんびりとした高校生活とのギャップに耐えかねのことかもしれない,と分析していた.初年度を乗りきって大学で猛勉強する環境になじめれば,あとは続くというとこだろう.

日本の大学も,新課程の高校時代をのんびり過ごした学生をシゴいて,大学は勉強するところだ,という意識を植えつけないと悲惨なことになりそう.その時に学生の質が現在よりも一層低下していたとしても,我々の責任ではないからね.法人化の成果が上がっていないなんて言わないでよ.

大学に世界に伍した成果を要求している一方でゆとり教育の政策を本気で推進している人達の気が知れない.


トロント大のサイトで“Antarctic ice sheet key to sudden sea level rise”という3月末付けの記事を見つけた.ほぼ同じ内容がGeological SocietyのサイトScience Dailyのサイトにもある.これらの記事はトロント大のMitrovica氏らが“Science”のMar.29 (2002) に発表した論文の解説である.

このサイトを見つけて以来,いろいろな考えが頭の中をめぐっている.1/29で紹介した月刊地球「第四紀の南極氷床変動と古海洋・古気候変動」(海洋出版)の原稿に含めるつもりで書いたけどボツにした原稿があったことも思い出した.その一部の復活もかねて,問題の背景も含めながら,手短に考えをまとめておこうと思う...なんで月刊地球でボツにしたかは聞かないで...以下を読めば分かる人は分かるはず...

□■□

10-12ka Cal-yrBP頃に後氷期の平均的な海面上昇の数十倍もの速さで急激に海面が上昇したことが,Fairbanks (1989, Nature, 342, 637-642)によって初めて認定された.このイベントは“Global Melt-Water Pulse IA, IB”と呼ばれる.Younger Dryas問題ともかんらんでその原因やインパクトについて現在も様々な研究が行われており,その契機を作ったFairbanksの論文は,1999年に開催された15回INQUAの会長講演で,“第四紀研究発展のキーポイントとなった重要な論文pdf_icon.gif”の一つにも選ばれている.

実は,Shaw教授自身も7-14kaBPの間に3回のCatasrophic Rise Events(CRE1〜3)を認定する論文を出している(Blanchon & Shaw, 1995, Geology, 23, 4-8)のだけれど,そのうちで一番若いイベントのCRE3(7ka)が汎世界的に認められていないこともあってあまり使われておらず,一般的にはMWPのほうが注目されているのが現状である.Bentley (1999)はLGM後の南極氷床と海水準変動についてレビューしている論文( QSR,18, 1569-1595)のなかで,両者を公平に扱ってくれている.

以上はYounger Dryasごろの話だが,2000年には,Yokoyama他(Nature, 406, 713-716)がLGM直後の19ka Cal-yrBP頃に急激に海面が上昇したイベントを明らかにしており,LGMの終焉を示すイベントとして注目されている.横山氏は月刊地球の中でこれを“post-LGM-MWP”と呼んでいる(いつ命名したの?).ここで興味深いのは,LGMという最寒冷期直後のMWPは氷期の終焉を告げる役割をはたし,その後の温暖化が進行しつつある途上で発生したMWP-IAやIBは一時的な再寒冷化を引き起こした,と考えられていることだ.MWPも発生する時期によって,その扱われ方が違う.

横山氏は,アイソスタティックな影響を排除するために,氷床地域から離れたいわゆるFar Fieldのオセアニア地域を研究対象にしている.同様に,MWP-1Aに関するFar Fieldのデータとして“Rapid Flooding of the Sunda Shelf: A Late-Glacial Sea-Level Record ”(Hanebuth他, 2000, Science, May 12)というインドネシア地域の研究論文がある.これによれば,14.6〜14.3 kaBPの300年の間に16mもの海面上昇があったという.MWPの論文のなかでも,これが一番期間が短く排水レートも高い結果だ.

Pulseという言葉が示すように,大きな海面上昇イベントが極短期間に起きていたことはほぼ確実だ.300年の間に16mというのSunda Shelfの最速の事例も,年代の分解能が向上すれば,もっと短い期間に絞り込まれる可能性もある.横山氏はいくつかの論文の中で,氷床の底面状態の変化が原因ではないかと考察している.つまり,氷床の底面が基盤凍結状態からソフトな堆積物の状態に変化したため,自分の体を支えきれなくなった氷床が平坦化し,厚さが減った分が水となったのではないか,というのだ.しかし,いくら底面滑りを起こしているからといって,300年(あるいはそれ以下)という短期間に,はたして氷床が海面上昇分に見合うだけの体積を減少させられるものなのか,という問題が残る.

一方,氷床の形状変化にたよらず,じわじわと氷底に蓄えられていた融解水が急激に排水されたと考えれば,短期間の水の供給も説明可能だ.しかし,氷底水流説は無勢なだけに,この仮説で説明が試みられることは期待薄.でも今後,氷床自身の縮小に難がでてくれば,水流説が日の目を見る可能性はある.

以上,MWPの概要を見てきたところでMitrovicaらの論文に戻る.図書館にいったら肝心のScienceの号がみあたらず,まだ原典にあたれていない.Webでの解説によれば,MWP-1Aの原因として南極氷床の崩壊も効いているのではないか,ということを指摘しているらしい.水の供給源は北半球の氷床の可能性もあるのだが,この研究では “fingerprinted"”とよばれる手法を使ってもっともらしい氷床を特定したら南極になったという.

ということで南極氷床が有望視されることになったが,Shaw教授はローレンタイドで,そして私は南極で,それぞれ氷底水流説を展開しているから,どちらにころんでもいい,といった感じ.

Pulseイベントに関連して最後に科学哲学的なことを書こうと思ったが,長くなりそうなので,大御所Richard B. Alley氏の “The key to the past?”( Nature, 409, Jan.18, 2001)という論文を紹介しておく.そこには以下のような言葉が囲みで書かれているので,原典を読めない人は内容を推測されたい.

Uniformitarianism
“Until we understand more of past climates, some of the most modern Earth science will continue to rely on one of the oldest geological assumptions.”

4月11日(木)

ずいぶん暖かくなって,自転車通学も快適になった.

帰宅時,大学を出たところで自転車がパンク.自転車屋に閉店ぎりぎりで飛び込んで修理してもらう.近くでよかった.自宅との通学路をいろいろな経路で試しているが,今日試した農場をつっきる道はどんづまりにフェンスがあって行き止まり.フェンスのすぐ向こう側が自宅なのに...

投稿論文の査読結果がいくつも同時に返ってきて,一気に忙しくなった.

4月12日(金)

大学ではプリンタもスキャナも自由にならないので,今日は自宅にこもって論文の改訂作業にいそしむ.

それにしても暖かくなったものだ.冬の札幌から春の学会で東京に出たときのような気分.草土の香りが漂ってきて鳥のさえずりも聞こえてきて気持ちが良い.久しぶりに部屋の窓を全開にした.といっても大窓ははめ込みなので小窓しか開かないのだけど.

外の春の陽気とは裏腹に,改訂はなかなか気の重い作業だ.

4月13日(土)

良い天気なのに,朝から晩まで論文の改訂作業にかかりきり.

自分を励まし,頭をクールダウンさせるためにインターネットをさまよっていたら,このページに行き当たった.そこには以下のようなまとめが書かれている.

  • 新しい研究は,それが新しいほど理解されない.
  • 新しい研究が評価されないのは,それを評価できる人がいないからである. 評価する人は自分で創り出さなければならない.
  • 権威に拒否されることは,優れた研究であるための必要条件である.
  • 権威に拒否された研究が優れた研究であるための十分条件は,それが草の根に広まることである.
  • ``研究''とは``新しい成果を出す''ことを意味するのではなく,``新しい成 果を出し,かつそれを人々に周知させる活動''を指す.
  • ``研究''を行うために必要な能力は,くじけない熱意と英語コミュニケーショ ン力である.
まったく同感!

奇しくも,上記のページにはShaw教授が日ごろ私にかけてくれるのと同じようなOxford大学教授の励ましの言葉も書かれている.うーん.私の5年越しの論文は,はたして“泡沫的研究”なのか“優れた研究”なのか...

4月14日(日)

usagi.jpg雨です雨!しとしと降る雨なんて何カ月ぶりだろう.

洗濯と掃除をすませて,論文改訂作業を進める合間に,ぼーっと外を眺めていたら,どこからかウサギがやってきた.雨にぬれてかわいそう.

ひととおり仕上がった原稿を印刷しようと思ったらインク切れ.大学の売店にはないタイプのインクなので,バスか自転車で遠出しなきゃ...マーフィーの法則とはまさにこのこと...

4月15日(月)




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北陸のような湿った雪がドカッと降った.30cm積ってまだ降り続いている.

プリンタのカートリッジを買いにダウンタウンに出かける.びしゃびしゃの雪に覆われた街の様子は真冬の富山市内そっくり.結局,適合するカートリッジが見つからず敗退.確実に置いている店は知っているのだが,自転車かバスでないと行けないので,この大雪じゃむり.なんとも不便な街だ.

4/10のネタになった論文,Clark P.U., et al. (2002) Sea-Level fingerprinting as a direct test for the source of global meltwater pulse IA. Science, 295, 2438-2441をようやく入手.この号をパラパラめくっていたら,Baker, V.R. (2002) The Study of Superfloods. Science, 295, 2379-2380 というのを発見.そこには,この滞在記で私がおりにふれて水流説について書き綴ってきたことのエッセンスが凝縮されて述べられている.Flood Scientist はだれでも行き着く思考先は同じ,ということか.私の考え方もまんざら間違ってはいないことも確信できた次第.この程度のエッセイがScienceに載るのなら,私の滞在記も投稿できるかもしれないなあ.その前に英語にしなきゃだめだけど.

とは言ってみても,Baker氏は,Channeled Scabland研究の第一人者だし,昨年には火星の水流地形のレビューを書いている(2001, Nature, 412, 228-236)ほどの大御所.そういう人が書いてこそ価値のあるものだろうから,私なんぞのどこの馬の骨とも分からぬ輩が書いてもしかたがない.

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