Takanobu Sawagaki沢柿教伸

Takanobu Sawagaki

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flag.gif エドモントン滞在記
2001.11.16〜11.30
11月16日(金)
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岩崎からの衝撃的なメールに対応して一息ついたら,まだ昼前だというのに異常な眠気に襲われる.机でうとうとしていたらShaw教授がやってきて,もうじき出るという論文のゲラのコピーをくれる.

読んでいて驚いたのは,私が禁断の事実として封印してきたことを,いともあっさりとお書きになってしまっていたことであった.この驚きを伝えるにはしばし説明が必要である.

ドラムリンの成因問題について,Shaw教授は水流説をとる陣営のリーダー的存在である.南極でみつけた同様の侵食地形を水流説で解釈しょうと試みたのが私のD論であった訳だ.その執筆過程で,ドラムリン問題というキーワードを手がかりにして,氷河地形・地質学の最先端の学説と研究活動にふれるようになった.これは是非日本にも紹介すべきだということで,総説論文も書いた.

このレビューワークの副産物として,世の中には神の創造を信じる人々(Creationist)がいて,その中でも創造と科学を融合させようとする一派があり,彼らによって水流仮説が都合のいいように用いられていることに気づくことになった.科学といえば,生物の進化(Evolution)を肯定する立場で神の創造(Creation)と真っ向から対立しているはずである.創造主義者の中にも神の行為を科学的に説明しようとする一派があることは興味深いことだが,それはそれとして,「水流仮説」が創造説側に使われているということを知った私は,これが「水流仮説」そのものが「エセ科学」として捕らえられてしまうのではないか,という危機感を抱くようにもなったのである.総説を書く際にも,この文献を引用すべきかどうか,大いに迷ったあげくにとりやめたという記憶がある.以後,この事実は私の中で封印されることとなった.

ところが,今回教授からいただいた別刷りの中には,「Webで検索できるようになって初めて知ったのだが,創造主義者のジャーナルに掲載されていたので今まで気づかなかった論文があった」と,この論文を紹介しているくだりがある(ということは,私の方が先にこの存在に気づいていたことになるが).つづけて「科学と創造主義の間にあるはずの摩擦を全く感じずにドラムリンの水流説について議論できることは楽しい」とまで書き切っている.

さすが,自説に自信のある御方は,いかがわしい物に対してもここまで寛容になれるものかと,恐れ入った.同時に,もしかしたらShaw教授も創造主義者なのかも,とずっとかんぐってきた疑問も氷解し,今回の訪問中に機会をうかがってはっきりさせようと思っていたことの一つが早くも解決してしまった次第である.

11月17日(土)

露頭写真集はこちら

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Shaw教授に誘われて,エドモントン郊外北西方向にエクスカーションに出かける.この秋にUAの職を得たDr. Alex P. Wolfeという古湖沼屋さんと一緒.彼は教授がQueens Univにいたときの教え子で,年間最優秀学位論文賞をとったという切れ者.それでも6年もの間あちこちでPDの冷や飯を食い,最後はコロラドにいたという.母国語はフランス語で,彼の英語には西部なまりがあるといっていた.

「Shaw教授は日本でも有名か?」と聞かれて「否,私にとってはすっごく有名だけど」と応えたら苦笑された.

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エドモントンは全くの平原にあるので,主な露頭は砂利採取のために掘られている穴で観察する.この砂利は,氷床が前進してくる前にロッキー山脈方面から供給された河成層で,その直上を氷床のティルが覆っている.問題はそのコンタクト部にあって,教授の水流説に従って解釈すると,氷床下の水流で湖成層や砂礫層が飽和し,湖成層内にはインボリューション,砂礫層と上位のティル層との境界にはロードカストのような構造ができたという.また,現在の地表は非常に波打っていて,この原型も氷床下でできたこと,それぞれのマウンドを乗り越えるように構成層も傾斜していることなどの説明を受ける.

カナダ入りして半月目にして氷床下のティルと水流イベントを示す堆積構造を見ることができて,まずまずの出足,といったところか.河成 礫層の上にティルが乗っている層序はまったくの見ものである.

教授の家でアレックスと一緒に晩ご飯をごちそうになり,帰宅後,一人で獅子座流星群を観察する.

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参考文献:Shaw, J. et al .(2000) The Athabasca fluting field, Alberta, Canada: inplications for the formation of latge-scale fluting (erosional lineations). Quaternary Science Reviews, 19, 959-980.

11月18日(日)

昨夜の流星群はすごかった.満天の星をぬって,同時に数個が流れることもあったし,数秒間光が残っていることもあった.凍えそうになりながら見ていた甲斐があった.

今度は下のようにみえるというエドモントンのオーロラに挑戦.無用に凍えないためには予報で情報を仕入れることも必要.

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Northern light over Edmonton

今日は洗濯や掃除で一日を費やす.

11月19日(月)

日本を出る前からずっと暇がなくて髪が伸びほうだいだったので,カナダで初めての散髪に行く.ヘタクソ,もうあそこには行かない.

11月20日(火)

朝方から雨.降った雨雫が地面ですぐに凍りつくのを初めて見た.これがブラックバーンになるので非常に危険.

11月21日(水)
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現在Shaw教授が指導している院生がいないことは書いたが,おかげでほぼマンツーマンでつきあわされている状態である.10時には決まって部屋までやってきてお茶に誘ってくれる.部屋にはお茶を沸かすような設備はないので,学内のあちこちに点在するスタンドバーのようなところでコーヒーを買って,そのへんに腰掛けて飲むといった具合.

Webにある教授の写真は若いときのもので,現在は病後ということもあるのか,かなり老けて見える.映画「ロッキー」にトレーナー(ミッキー)役で出ていたBurgess Meredithに似ているんじゃないかと思う.小柄なところやシャガレ声などはそっくりかも.

はたして,謎の日本人ロッキーと名物教授ミッキーのコンビとあいなったわけだ.

11月22日(木)











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1122-a.gif エドモントンは晴天率が高く,地平線が透けて見えそうなくらいに晴れ渡る場所なのだが,今朝は珍しく霧がかかりそれが凍って霧氷となる.雪が降ったかと思うほど,辺りが真っ白になった(20日のは,雨粒がすぐに凍ったので白くはならなかった).

そもそも,この気温でなぜ雨なんだろう?普通の朝霜やダイヤモンドダストなどとは,上空の大気の状態.熱収支・水分条件などの面でどうちがんだろうか?と疑問が浮かぶ.

こういう現象を着氷性の霧雨というらしい.

遠くまで透ける朝よりも,今朝のような白いモヤの朝のほうがなんとなく落ち着いた気分になれるのは日本海側育ちの性分なのだろうか...


午後,バンクーバーにあるSimon Fraser大学からTina Looという歴史学者が来て,「Making a Modern Wilderness - Conserving Wildlife in 20th Century Canada」という講演をするというので聴きに行く.

今や野性生活から離れてしまった現代の都会生活者は,本能的に野性的な活動を体験することを求めており,多くの野外レクリエーションは,それを擬似的に実現するために生まれたといっても過言ではない.中でもハンティングは良い例である.しかし,環境保全との関係でみると,野放しなハンティングは必ずしも好ましいことではない.最近では,コンピューターをつかったハンティングシュミレーションゲームがよく売れているということを知った講者は,疑似体験とはいったい何か,そもそも,現代における野性体験と本当の野性的自然との関係はどうあるべきか,という疑問を抱くようになった.カナダの近代史における自然利用とハンティングの変遷を顧みることでこの問題を明らかにし,今後への提言を試みたい.

私の乏しい英語理解力では,概ねこういう趣旨の講演だったように理解したが,残念ながら,だからどうなんだ,という肝心の部分はよく理解できなかった.文系の人が使うタームは聞き慣れないものが多い.

<私が個人的に抱いた疑問>

  • いまだに狩猟生活をしている人のハンティングと都会生活者のハンティングとの関係.
  • 保護地域や狩猟地域を設けることは,生態系の孤立化を生まないか.
  • ハンティングに適した種を強制的に移住させるような,いわゆる「移入種問題」はカナダにはないのか.
  • フィッシィングはどう考えたらよいのか.
11月23日(金)
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朝起きると数センチの積雪.

午後,定例のセミナーがあり,地球物理研究科Dr. Martyn Unsworthによる,「Seven Months in Tibet」という講演があったので聴きに行く.

電磁波でチベット高原下の地殻構造を探査してきた話.半分はチベットのスライドショー.分野も近く土地勘もあるので,昨日の講演よりよっぽどよく理解できた.けど,新鮮味なし.

話を聞きながらあらためて気づいたことは,クンルン山脈付近の横ずれ断層の変移速度が比較的遅い氷河の流動速度とオーダーが同じだということ.チベットで氷河のGPS流動観測をする場合,地殻の変動量を差し引く必要がありそう.

11月24日(土)

午前中に,バスに乗ってショッピングセンターに諸々の買い出しに出かける.雪もうっすら積もってきて冬らしくなる.クリスマスまであと一月を切り,お祝いに商売に,街はいよいよ臨戦体制に入ったようだ.

夕刻,Shaw教授夫妻に誘われて「Big Mama: The Willie Mae Thorton Story」というミュージカルを観に行く.劇場はエドモントンの最も古い部分であるWestmount地域にあるRoxyという小さな劇場で,満場の盛況ぶり.Audrei-Kairenという歌手(+ギターと電子ピアノのバンド)が,Willie Mae Thortonの一生とブルースの歴史を,悲しくもコミカルに独唱(演奏)するというもの.

Audrei-Kairenの歌唱もさることながら,あとの二人のバンドの演奏も非常に聴きごたえがあり,最後は満場のスタンディングオベーションの盛り上がりをみせる.

エドモントンは,都市の規模のわりには劇場や講演の数が多い場所だという.教授夫妻は,あちこちに頻繁に観劇にでかけているらしい.

11月25日(日)

10cmぐらいの積雪.気温は一気に氷点下15度まで下がった.これでもやっと平均的な気候になったのだ.今まで異常な暖かさで楽をしてきたが,突然冬の現実を見せつけられたという感じ.

宿舎周辺の歩道は除雪されないので長めの靴が必要.玄関先の除雪道具も必要.そういうことでまた買い出しに行く.こんなものを買うにも,いちいちバスに乗って出かけなきゃいけない.しかも日曜日は1時間に一本だし乗り継ぎも有る.やっぱり我が家は田舎にあるのだ.

11月26日(月)

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毎朝の定例となったコーヒーの時間,コルディレラ氷床とローレンタイド氷床のコンタクトの問題を研究しているクロアチアのミラン(-コビッチ?)さん(よく名前を聞き取れなかった)も加わって,3人で氷底水流議論に花が咲く.

Shaw教授の知り合いが地質のジャーナルに氷底水流に関する論文を投稿したところリジェクトされたという.その理由が,「その考えが一般的には受け入れられていないから」ということだかららしい.これは科学的な理由にはならないだろう.ガリレオもアインシュタインも最初はそういう理由で不当な扱いを受けてきたという歴史があるではないか!どうやら水流説も同様の迫害にあいつつある形勢のようだ.

対立する二つの仮説に関する私の基本的な考え方については総説論文の結論の章を参照のこと.

11月27日(火)

火曜日はShaw教授のスカッシュの日.今日も夕方に体育館のほうへ出かけていった.そのうち私も教えてもらおう.

ここも西欧の御多分に洩れず皆帰宅時間が早い.5時を過ぎるとヒトケがなくなる.今も午後7時すぎでそんなに遅くない時間なのだが,静かすぎて気味が悪い.モノノケの時間か.

11月28日(水)
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目覚まし時計代わりにしているFMラジオで「オンタリオやケベックでは凍上による被害が深刻だ」とレポータが伝えていた.凍結融解サイクルが激しいからだという.そういえば,エドモントン周辺ではそれらしい現象は見ない.先日のエクスカーションの時にも表層部には活動層や永久凍土の痕跡は見られなかった.ここは乾燥しているうえに日周期性の凍結融解サイクルが少ないためと考えられる.

それにしても,この番組は朝のニュースや天気予報にポップな音楽をおりまぜて放送しているものなのだが,DJの兄ちゃんの口から「東部はエドモントンと違って凍結融解サイクルがあるもんね」なんて学術的な言葉が出てきたときにゃホント耳を疑ってしまった.

11月29日(木)

まだ雪は降り続いている.天気予報によれば大雪だということらしい.

このところ松葉杖をついた学生をよくみかけるようになった.滑って転ぶ人が多いということか?

11月30日(金)


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今朝,路面がブラックバーンになってバスが遅れたため,氷点下20度のバス停で20分以上待たされる.おまけにバスの中は超満員.これはさすがに体にきた.

午後,定例のセミナー.UAの John Hodgson 教授のところで研究所手をしながらマスター論文を書いているIain Getty氏の「Using GIS Tools to measure error in organic and artificial aggregation methods」という話.地理的情報の内部にデータ収集時に含まれてしまうエラーをGISで検出しようというもの.

「GISの楽しみはデータの解析段階にあるが,そこに至るまでには退屈でしんどい前処理を経なければならない」という言葉に思わずうなづいてしまう.またデータポイントの内在エラーの例えとして「一番近いと思って降りたバス停よりも,実は一つ隣のバス停のほうが目的地に近かった」という話に,これもまた大きくうなづいてしまった次第(エドモントンの生活で一番フラストレーションが溜まっている部分をつつかれた).こいうい現象もセンサスデータポイントの代表性の問題として一般化できるということを知って一つ利口になった.

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