Takanobu Sawagaki沢柿教伸

Takanobu Sawagaki

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flag.gif エドモントン滞在記
2002.7.16〜7.31
7月16日
(火)

調査旅行
1日目

Shaw教授の弟子で,Grande Prairie Regional Collegeで講師をしているRob Young氏(現在はOkanagan大)が案内役で同行してくれることになった.

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朝エドモントンを出てカルガリー街道を南下.Red Deerの手前のLacombeという所から東に入って,最新氷期末期にロレンタイド氷床末端部にできたトンネルチャンネルやハンモッキーモレーンを見ながら,56号線を南へ.黄色に染まったキャノーラ畑が延々と続く平原を走る.耕作地は主に厚いTillの分布域か氷河湖の湖成層がある場所に分布しているということで,景観と地表面物質のよい対応関係がみられる.

Hill-ss.jpg 今日の目玉はHand Hillsという標高1100mほどの丘.アルバータ南部の平原は約900mの標高だから,この丘はそこから200mほど突き出していることになる.200mほどの丘でも,この平原では非常に目立つ高まりである.トンネルチャンネルやエスカーの分布を追っていくと,Hand Hillsを乗り越えて南に連続しているのが分かる.これらが氷床底の水流を示しているとすれば,水流は氷の底でこの丘を乗り越えたことになる.

Young氏は最近,この丘の上部を覆っている礫層から33ka〜22kaという年代を示す動物の骨を発掘することに成功しており,LGM以前には,ローレンタイド氷床がここまで拡大していなかったことを示した.Hand Hillsを乗り越えて連続する氷床底水流地形は,LGM以降に形成されたことになり,その時期には,丘の高さや水流の方向などから,ローレンタイドとコルディレラ氷床が合流していた可能性を示唆している(Can. J. Earth Sci. 36, 1999).

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エスカーの左端上に立っているのが私で,両手を挙げているから2m以上はあるはず.その大きさが分かってもらえると思う.

今回みたエスカーはとにかく巨大で長く,これまで世界中で見てきたものの中でもっとも立派なものだった.

P7160020s.jpg その後DrumhellerにあるRoyal Tyrrel Museumを訪問.ここの白亜紀の地層から大量に恐竜の化石が出るので,その試料展示のために発足した博物館だが,ロッキーにはバージェス頁岩で有名なカンブリア紀の化石の宝庫もあるし,第四紀には氷床もあったしやマンモスもいたので,アルバータ州一帯の地史全般の展示を見ることができる.第四紀のセクションには,Young氏が監修したビデオが上映されている.もちろん氷底水流説バリバリの内容.

入館料はC$20と高めだが,地質学の博物館としては非常に立派な部類に入るだろう.2時間ほどかけてじっくり見学.

参考リンク:Asahi.com:恐竜博

Young氏の勧めで,日本の民宿ともいえる安宿に泊まる.客室の下は西部劇に出てくるようなバーになっていて,アルバータ牛を追うカウボーイのたまり場になっている.こういう経験は地元の人と一緒じゃ無いとなかなできないのもだ.

7月17日
(水)

調査旅行
2日目

朝,Shaw教授の弟子でカルガリー大の助教授をしているSjogren氏が合流.彼の案内で,ダムの湖畔にできた侵食崖の露頭を観察.ここは,Shaw教授の弟子でKent State大の助教授をしているMandy J. Munro-Stasiuk女史のD論のフィールドである.

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P7170001s.jpg 彼女は湖畔の露頭でハンモッキーモレーンの断面を詳細に記載し,地表面では一連に見えるハンモッキーモレーンでも,その構成物は基盤岩・Defromation Till(左写真)・湖成層など様々であり,どれにも一様に地表面を侵食したプロセスが働いていたことを示した.これによって,ドラムリンやハンモッキーモレーンの成因が,少なくとも氷底変形ではないことが示されたわけで,氷底水流侵食を示唆する有力な根拠を提示したものと評価されている.


P7170024s.jpg その後,カルガリーの西にあるOkotoksまで行って,コルディレラ氷床によってロッキーから運ばれてきたErratics[迷子石]を見に行く.

マットを抱えた女子学生が二人でやってきた.何をするのかと尋ねたところ,ボルダリングをしに来たのだという.


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再び東に向い,世界遺産に指定されているDinosaur Provincial Parkで落日を迎える.

Patriciaの安宿に泊.

7月18日
(木)

調査旅行
3日目

P7180018s.jpg 午前中はDinosaur Provincial Parkを探索.
たまたま恐竜の化石の発掘作業をやっていたので,スタッフの人に頼んで見学させてもらう.巨大な化石が姿を現しつつある現場を見るのはなかなかの興奮ものだ.

発掘現場のスタッフの一人が“あなたたちは何を調べているの?”と聞いてきたのが運のつき.Shaw教授は目の前の恐竜の事もすっかり忘れて,自説を熱心に説明しはじめた.驚くべきことに,教授の話が始まると他の人たちも集まってきて熱心に聞き入る事態になった.彼らも地質屋のはしくれだから,大きな氷床の話はそれなりに面白いものなのだろう.まあこれも,私達が恐竜に興味を持つのと同じことか.

思わぬところで,古生物屋と氷河地形屋との交流となった.

Shade-ss.jpgその後進路を北にとり,Hannaを経由してエドモントンへ.今までと違って,放牧地にも麦畑やキャノーラ畑にもならない不毛な平原が続く.氷底水流が堆積物をすっかり削り去ってしまったからだ.所々で,数十キロにもわたって連なるフルートの片鱗が伺えるが,起伏が小さいために地上から確認するのはかなり困難で,DEMや衛星画像と突き合わせながらの観察となる.この平らさ加減とその広がりは,まったく容易には説明できないスケールである.

単調な風景の中をどこまでもまっすぐに続く道路のドライブに,ついウトウトしてしまった.小一時間は寝ていたはずだが,目覚めてみても風景は全然変わっていなかった.

こんなにでかいスケールの地形を対象にしている研究者の現場感覚は,他の地域に住む人にはなかなか理解してもらえないに違いないと思う.Shaw教授一派の説がなかなか理解されない一因はそこにもあるのではないか.この疑問を教授にぶつけたら,同じカナダ人であっても,東部の人が論文だけからこのスケールを理解してくれることはあまりなく,議論の際にしばしば行き違いが起こる,という返事だった.大陸氷床の地形を扱う研究者は,一度はこの地を訪れて,このとてつもないスケールを経験しておくべきだと思う.

南極氷床やチベット高原の経験から大きなスケールには慣れていたつもりだったが,今回のアルバータ南部の経験は,私の世界観を根底から覆してしまった.

7月19日
(金)

スェーデンに留学しているShaw教授の長男が帰国しているので,一緒に昼食.教授の息子だけあってバリバリのサッカー狂.エドモントンのチームにも籍を置いていて今週末はBC州へ遠征試合に行くらしい.

午後のお茶の時間に教授とお互いの息子の話になる.教授の長男が幼いときに恐竜が絶滅する映画をみて泣き出してしまった話をしてくれた.先日,これを見た私の息子が“しいがかわいそう”と泣き出してしまったことを思い出して,お互いの子煩悩ぶりに話がはずむ.

7月20日
(土)

明日から1週間,BC州へ調査旅行にでかける.今日は,前回の旅行で溜まっていた洗濯や雑用をこなすのに精一杯な一日となった.

AppleがOS Xの新しいバージョン“Jaguar”を発表した.その発売日は私の誕生日.カナダで入手できるパッケージは日本語も使えるのか気になるところ.日本で買ってもらって送ってもらったほうが確実かなあ...

7月21日
(日)

調査旅行
1日目

朝,Shaw教授と一緒にエドモントンを出発.ジャスパーを抜けて,BC州の北の都と呼ばれるPrince Georgeまで.約9時間のドライブ.

今回の調査旅行は,昨冬のセメスターで受講仲間だったMarten Geertsema氏の誘いにより実現したもの.彼は,Prince GeorgeにあるBC州森林省の研究所で働く傍ら,D論をまとめている最中.

P7220017s.jpgP7220018s.jpgP7220033s.jpg

マーチンはジョディ・フォスター似の美人の奥方と一緒に,街から車で1時間ほどのところにある湖畔の家に住んでいる.生活インフラが来ていないので,電気はソーラー,調理はプロパン,電話は携帯,といった具合.しかし,目の前に広がる湖と森林の美し風景,そして視界が効く範囲にいるのは自分たちだけ,という環境は,多少の不便さを我慢しても,ありあまる至福感を与えてくれる.

犬ぞりが彼らの生きがい.現在はダッチシェパード4頭を手元に置いていて,自宅の一帯は犬ぞりのトレーニングコースとなっている.

Prince George周辺の調査の間,このすばらしいお宅に泊めてもらうことになった.

7月22日
(月)

調査旅行
2日目

今回の調査の最初の目的は,DEM画像ではじめて確認できたドラムリンの分布を現地で確かめること.

97s.jpgアルバータとちがってBC側は圧倒的に木が多いので,地上からドラムリンを確認するのは非常に困難であることが分かった.今までドラムリンの分布があまり注目されてこなかった原因も分かるような気がする.

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7月23日
(火)

調査旅行
3日目

朝,奥方の見送りを受けてPrince Georgeを後にし,次の調査地であるFort St Johnに向かう.Fort St Johnはアラスカハイウェーが通過する街で,BCとアルバータの州境にある.それと同時に,最新氷期には,西からコルディレラ氷床が,東からはローレンタイド氷床が迫ってきていた場所でもあり,二つの氷床の関係を調べる上で重要な地域となっている.

P7230019s.jpgこの一帯は,二つの氷床の末端に位置していたことから,氷期の末期には氷床の縁に大きな湖が存在していた.その湖に堆積したバーブがPeace Riverの両岸に露出しており,また,湖が干上がる過程で細粒物質が吹き飛ばされ,砂丘などの風成層が形成されている.

この地域のもう一つの特徴は,BC州でも有数の地滑り地帯であること.この地域一帯の地滑りの分布と成因区分,および地滑りに関わる地形発達史を明らかにしようというのが,マーチンの研究課題.

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7月24日
(水)

調査旅行
4日目

午前中は,Fort St JohnにあるBC州Forest Serviceのオフィスで空中写真を見せてもらう.

P7240002s.jpg 午後,ハンモッキーモレーンの断面が見られる露頭を観察.

この露頭は,ハンモッキーモレーンの側面が地滑りで削り取られたもので,滑落崖にあたる.地層は,基盤岩の直上に礫層があり,湖成層へと変わる.そして最上位にはTillが堆積する.

地形といい堆積物といい,この地域の第四紀地質全般を典型的に示す好露頭である.

7月25日
(木)

調査旅行
5日目

今回の調査旅行の目玉.ヘリに乗って山岳地域へ飛び,Shaw教授持参のGround Penetration Radarで探査を行なう.

P7250035s.jpgP7250042s.jpg 調査の対象はカール状の地形.この地域は地滑り地帯でもあり,カール状の地形でもいちがいに氷河地形だと言えないので,GPRを使ってカール状の地形の底の堆積物の構造を調べよう,という企画.またく日本のどこかでも聞いたような話だ.

残念ながら,今回は電波がまったく浸透せず,内部からの反射波は得られなかった.原因として,細粒物質が緻密に固結している可能性が考えられる.とすれば,カール状地形の底の堆積物はTillである可能性が高い.地表面はすっかり植生に覆われていて,アクティブな感じは全く受けないが,底から流れ出しているように見えるローブ状の地形は,かつて岩石氷河であった可能性も考えられる.

P7250029s.jpgP7250015s.jpg 帰路に上空から非常に新鮮な地滑り跡を発見.上空旋回と地上から詳細に観察.

非常に浅い滑り面をもつ低角すべりのようで,表面にはブロック化した土塊が滑った跡が見られた.

マーチンの話では,おそらく数週間前に発生したものだろうということ.

7月26日
(金)

調査旅行
6日目

朝,Fort St Johnを出発.Dawson Creek・Grande Prairie・Grande Cachを経由してエドモントンまで.

Grande Prairie・Grande Cachの区間をつなぐ40号線は,ロッキー山脈の東山麓を横切るルート.Shaw教授も初めての道ということで,地形を観察しながらのドライブ.

深夜帰着.

“7月26日をシステム管理者に感謝する日にしよう”というがあるのを発見.

7月27日
(土)

小雨が降ってやや肌寒い.洗濯・掃除・買い物を済ませて,調査記録をまとめる.

調査期間中,車の移動時間が長く,カーラジオをよく聞いた.現在,ローマ法王が来加中なので,その話題が多く,若い世代の人々が熱狂的に歓迎している様子が伝えられていたのが非常に印象的であった.“たとえ女王が来てもこんなことにはならだいだろう”とマーチンが言っていた.彼にも若者の熱狂ぶりは理解できないらしい.

食事の時に冗談半分で,“仕事さえあればカナダで暮らしたいんだけどねえ”と言ったら,Shaw教授とマーチンが本気になって,引退が近い教授がいる研究室の情報や公募書類の出し方,採用に有利になるような業績の作り方などをアドバイスしてくれた.彼らの話しぶりでは,そんなに夢のようなことでもない感触だった.二人とも,私がカナダで一緒に仕事をしてくれることを,ある程度期待しているようだったが,今後話が本気になってきたらどうしよう...まあ世の中そんなに甘くはないけどね.

7月28日
(日)

曇り.涼しく過ごしやすい一日.

夕食後に玄関のベルがなったので誰かと思ってドアを開けると,チョコを手にした少女が立っていた.教会への寄付を集めているという.よく見ると母親らしき女性が遠くから彼女を見守っていた.

学生時代に住んでいた家にも,時々,新興宗教らしき人が子供を使ってお金をせびりに来ていた.そういうことに体よく子供を使っている大人のほうにガマンがならず,“金が欲しいんだろ?やるよホラッ”という風に,後に控えていた大人に小銭を手渡して追い返していたことを思い出してしまった.

今日の少女は,チョコ一箱3ドルだと言っていた.実際に店で買ってもそれくらいはするだろう.それに,こちらのキリスト教の感覚もよく分からないので,一応好意的に受け止めて,お布施をするつもりで一箱いただくことにした.1ドルの色を足して.少女は笑顔でお礼を言って,女性のもとに駆け戻って行った.

ちなみに仏教では,“お布施とは,慈悲の心を持ち,自分の持てるものを惜しまず,見返りを求めずに差し出すこと”として,お金をもらうほうよりもお布施をするほうの喜びをよしとする...門前の小僧の豆知識...

チョコをほおばりながら,これでよかったのだろうかと,宗教や慈善というものについてあれこれ考えた.子供と背後の大人,という組み合わせがどうも良くないのだ.考えすぎたせいか,どうもチョコの味はおいしくなかった.布施の喜びがあればそうはならないハズなのに...まだまだ修行が足りないのかなあ.


久しぶりに家族と長電話.向こうの声が明るくはずんでいると,こちらの気分も軽快になる.どんな薬や嗜好品にも勝る,最良の心の栄養だ,とつくづく思う.

7月29日
(月)

朝,どしゃぶりの雨.久しぶりにバスで大学へ.

“UAの事務から質問が来たので教えてくれ”とShaw教授に言われて,“在外派遣研究員”の英語表記について調べるハメになった.

文部科学省のホームページに当たったが発見できず,総務省 統計局の資料で発見.“Overseas research scholars refer to the faculty members who are sent abroad of the national universities and the professional colleges under the jurisdiction of the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology, Japan”となんとも長ったらしい名前になるらしい.単純に“Overseas research scholars”でも通じるみたいだけど...

せっかくだから,ついでに統計局の資料の統計値も見てみたら,平成10年度の在外派遣研究員の総数は719人(甲 487・乙 13・短 期 219)だそうだ.私は“若手枠”という区分で来ているが,それは一応“甲種”に含まれているはず.結構いるんだなあ,という感想.

今度は逆に,“Overseas research scholars”をGoogleで検索してみた.なんと,日本語のページでヒットしたのは,わずかに1件.Web全体でも21件という結果.

来月1日から,東のオンタリオのほうへ出かける.オタワには,学振で極地研にいたときからの付き合いのトムさんがいる.会いたいとメールを書いたら,歓迎するという返事が来た.オタワは短時間の滞在の予定だけど,会うのが楽しみ.

7月30日
(火)

私.が.カナダ.に.来て,9か月.が.過ぎた.英語会話.が.易しく.なった.と.思う.しかし,Shaw先生.が,私.に,簡単な.英語.を.話す.から.かもしれない.

弘前大学人文学部社会言語学(国語学)研究室の.ホームページ.が,「やさしい日本語(Easy.Japanese)」.を.紹介して.いる.Easy.Japanese.は,災害.<事故.や.地震.など.危険な.こと>.が.起きた.とき,外国人.に.連絡.を.確かに.伝える.ため.の.日本語.だ.

たぶん,Shaw先生.も,Easy.English.を.使って.いる.と.思う.

私.は.これ.を.Easy.Japanese.で.書いた.できるだけ,決められた.漢字.や.言葉.を.使った.でも,なかなか.難しい.

7月31日
(水)

しとしと降りの雨.朝晩は非常に寒い.暖房が欲しいくらい.先週までの猛暑がうそのようだ.ニュースによると,7月の最高気温と最低気温の両方で,エドモントン観測史上の記録を更新したらしい.

夏休みを利用した研修が多いのか,日本人の学生をよく見かける.日本人には独特の雰囲気を感じるので,なぜか,他の東洋人とは簡単に区別がつく.

明日から東部旅行.前半はShaw教授所有のコテージでバカンス.教授は,電話もテレビもない人里離れたこのコテージに8月末まで滞在する.出かける直前,やらなきゃいけないことが山ほどある,とこぼしていた.それなら行かなきゃいいのに,と思ってしまうところが日本人.彼らの感覚では,休暇はきっちり取るものなのだ.そこでひと月もの間,いったい何をして過ごそうというのか,興味津々.じっくり観察してこようと思う.

東部旅行の後半は,カナダ地質調査所のDavid Sharp氏らと一緒にGravel pitの調査.その後,ScablandDry Fallsの大きさと比較する目的でナイアガラの滝を見物に行く.帰路にオタワのトムさんの家に寄って,帰着は12日になる予定.

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